『あなたのおかげで、わたしはバスケ部を続けることができました。辛い時、あなたの手紙で励まされました。毎朝下駄箱を開けるのがとても楽しみでした。直接お礼が言いたいので、名前を教えてください』

 どうか返事が来ますようにと、神頼みの如くパンパン手を叩いて祈って、そして校舎を後にする。

 家路を行く足は弾んでいた。自然と口元がニヤけていた。

 だって楽しみだったから。明日の朝には、あの子の正体がわかると信じて疑わなかったから。

 期待からくる緊張で、眠れぬ夜を過ごしたわたし。
 翌日昇った太陽は、さんさんと光り輝いていたのに。

「ひ、ひみつ……?」

 下駄箱を開けた瞬間に、わたしの肩はズドンと落ちた。何故ならそこには、『ひみつです』の文字が見えたから。

 いつもと同じく、ちょっとへたっぴで歪な文字。望んでいた返事をもらえなくて、がっかりした。

「な、なんで秘密なのよっ。これじゃあ直接お礼が言えないじゃないっ」

 むうっと膨れ、思わず抜けていった声。
 独り言を呟くわたしに、ホウキを持った都丸くんが近寄った。

「おはようございます、近藤先輩。どうかされました?」