ああ、今日もやっぱり乗ってきた。最近風邪も流行りだしたから心配で夜も眠れなかったんだ。いつも同じ電車に乗ってるからさ、きっと君も僕の顔を覚えた頃だと思うな。新学期が始まって三ヶ月、ずっと同じだったからね。僕もちゃんと覚えたよ。君の名前、クラス、口調。いつも君は友達と車内で話してるからさ。自然と耳に入って来るんだよね。僕は何も接点がないけど、君も僕を見ててくれてたら嬉しいな。



初めて君を見た時、僕は君を『運命の人』だって思ったんだ。黒縁のメガネ。長い髪。少し低い身長。整った顔つき。全部が全部、僕の理想で驚いたんだ。でも最近はイメチェンして髪を切ってたよね。でも僕は君が好きだから、どんな君でも受け入れるよ。『タイプ』はあくまでも『タイプ』でしかないんだ。君がどんな姿になっても、例え整形して別人のような顔になっても、僕はきっと君に気づくよ。



君は自分に自信が無いんだってね。いつもいる友だちに相談してたよね。確かにいつも一緒にいる友だちはみんなスタイル抜群で美人。きっと都会で歩いてたら声をかけられるような子ばかりだ。でも、君には君の良さがある。その引っ込み思案な性格も、もじもじした動きも、全部が君の個性だよ。他の人が見向きもしない君に、君の良さに、僕はちゃんと気づいてるよ。僕だけは、きっと。



そもそも、君の良さに気づかないなんて、酷い奴も居たもんだ。人それぞれ好みはあるだろうけど、こんなに見向きもされてないと僕まで辛くなる。恋のライバルがいなくなることはありがたい。でも、それでも、自分の好きな人が認められてないってわかると、それはそれで悲しいし腹が立つ。君も君の友達に匹敵するくらいかわいいのに、他の奴はより良い見た目の方に目が行くんだもんなぁ。



最近は温暖化で気温が高くて、夏服が許可されたよね。君も着始めたよね。すっごい良く似合ってる。今まで見えなかった腕、足、首筋、全部が魅力的で目のやり場に困る。君を見たいのに見れない。こんなにもどかしい気持ちは生まれてはじめてだ。君がすれ違う度に香る汗と香水の混ざった香りも、他の誰かにとっては鼻をつくような酷い匂いかもしれない。でも僕には、どんな花や香水も敵わないような心地よい香りに感じるんだ。いい匂いだって思う相手とは相性がいいってどこかで聞いたけど、それなら僕と君は最高の相性だね。



君と僕の相性を占ってみたんだ。とは言ってもネットの無料サイトでだけど。名前で判断するらしいからさ、しばらく出来なかったんだよね。名前は知ってても名字は漢字じゃ分からなかったからさ。二ヶ月前に君が前落とした名札でようやくわかったんだ。君のフルネームを知るのに二ヶ月。思ったよりかかっちゃったなぁ。僕に勇気があれば話しかけに行けるのに…。



そういえば、一ヶ月くらい前から男の人と電車に乗るようになったよね。友達が増えたのかな。僕は嬉しいよ。あんなに引っ込み思案で、おどおどしてた君が、こんなに楽しそうに異性と話してるなんて。今まではみんな同性だったから心配だったんだよ、クラスで浮いてないかなぁとか、楽しく学校行けてるかなぁとかね。でも杞憂だったみたいで良かったよ。きっと成長出来たんだね。良かった、本当に良かったよ。友達が出来て。こんなに君が嬉しそうなんだもん。君が幸せなら僕も幸せだよ。でも、いつか今よりも僕が君を幸せにするからさ。その時を楽しみにしててよね。僕もそれまでにいっぱい努力するからさ。



君と乗ってくる男の子はすっごくスタイルが良いよね。身長は高いし筋肉はある。いかにも『爽やかイケメン』って感じの好青年だ。僕は彼よりも身長が低いし、きっとそんなに魅力的じゃない。男らしくもない。だからジムに通い始めたんだ。結構ハードだけど、君との将来を思えば頑張れるよ。二ヶ月前と今では大違いだよ。腕も足も筋肉がついたし、電車では見せられないけど、腹筋も付いたんだ。まさか自分がシックスパックになるなんて思いもしなかったなぁ。これも君のおかげだよ。君を想うと、僕は何でも出来る気がするんだ。



ちょっと前に美容室にも行ったんだ。最近はみんなマッシュだったりウルフだったり、流行りの髪型をしてるよね。確かにそれも良いと思ったよ。今はそれがスタンダードってことだからね。でも、多分それだと僕は他の人に埋もれちゃいそう。だからありがちなやつじゃなくて、強めのパーマをかけてみたんだ。僕が僕じゃないみたいになってさ。すごい驚いたんだ。君に出会う前の僕とは大違いだ。君には感謝してもしきれないや。僕は君に話しかけられないけど、心の中では君を見るたび『ありがとう』って思ってるよ。本当に、出会えて良かった。



どうやら君と一緒にくる男の子は僕と同じバイトを、同じ店で、同じ時間にしてたらしい。なんでこんなに大切なことに気づかなかったんだろう。もっと早く気づけば良かった。ちょっと話すとすぐに仲良くなれたよ。好きなバンドが一緒で意気投合したんだ。仲良くなるにつれて君のことも話してくれるようになったよ。良かったね、君に彼は好印象らしい。いいなぁ彼は。君と一緒にいれて。妬いちゃうなぁ。羨ましいなあ。



君の好きな食べ物はミルクチョコとぶどうグミらしいね。いいね、すごく君らしいし可愛らしい。これも君の友達が話してくれたんだ。いっぱい君の話をしてくれるんだ。本当に彼と仲良くなってよかったよ。君の好みとかを知っておかないと将来大変だからね。僕は君と喧嘩がない幸せな家庭を作りたいんだ。きっと楽しいよ。いや、楽しくしてみせる。僕が君を幸せにするからね。そのために、いっぱい君について学んでおくよ。



『学ぶ』といえば、テスト結果はどうだったのかな。ちょっと前まで一生懸命勉強してたよね。うとうとしながらも頑張って目を開けて、首を振ってなんとか起きて。熱心な君も、よだれを垂らして寝ちゃう君も、どっちもかわいかったなぁ。だめだ、君を見る度にどんどん好きになる。友達と友達の間からでしか僕は君を見られないけど、それでも僕にとっては充分なんだ。むしろ、これくらいじゃないといけない。好きで好きでどうしようもなくなって、自分でもどうなってしまうか分からないからさ。辛いけど、僕も頑張ってるんだ。



そういえば、君は他の時間帯の電車に乗るようになったのかな?最近いつもの電車に乗っても会わないから寂しくて寂しくてどうしようもないんだ。きっと課外で早く行ってるんだよね。大変だね。いつもの電車に乗ってくるときもギリギリで乗ってくるのに、それより早いんじゃきっと辛いよね。頑張り過ぎは良くないよ。体が何よりも大事なんだから、それが壊れたら大変だ。それとも、一本遅いのに乗るようになったのかな?いつも大変そうだからね、それはいい考えだ。僕もその電車に乗ってみようかな。気分転換に良いかもね。



うん、やっぱりそうだ。君は火曜日と水曜日に課外があって早く行ってるんだね。僕も色々試してみて分かったんだ。君の友達にも聞いたし間違いないね。そして、他の日にちは時々一本遅く行ってるんだね。こればかりは運だからしょうがないけど、君に会えない日はやっぱり辛いなぁ。君はきっとどうとも思ってないんだろうけど、僕にとっては何よりも大切なことなんだ。君の選択にケチは付けないけど、やっぱり文句の一つでも言いたくなるなぁ。



やっぱり君はあの男の子と仲が良いんだね。僕が彼にこの電車に乗るように頼んだんだ。君も一緒にね。そしたら本当に乗ってくれた。これで毎日君を見ることができるね。嬉しいなぁ。やっぱり持つべきは良い友だちだね。彼は僕と君の共通の友達。じゃあ君と僕は実質友達だ。まだ話したことは無いけれどいつか話せるといいなぁ。でもいきなり話したら引かれちゃうかな。それは困るなぁ。そう思ってたんだ。君には嫌われたくないしね。今嫌われたら、君との将来が危ぶまれるからね。あ、でもラブコメでも印象最悪からくっつくパターンがあるし、それもドラマチックで良いかもね。でもやっぱり。甘々に愛し合うのが良いかなぁ。迷うなぁ。



君は最近メガネをやめてコンタクトにしたよね。いいね、かわいい。良く似合ってる。こっちのほうが君の顔がよく見えていいね。君を少しでも多く知ることが出来た。そんな気になって僕は幸せだよ。初めて君のその姿を見たときにはもう、ドキドキを隠すのが大変だったなぁ。でも付け忘れることもあるんだね。時々目が合うと目を凝らして僕を見るよね。君も僕を知ろうとしてくれるのかな、思い違いかな?それでもいいんだ。そう思うだけでも僕は幸せだからね。



そういえば、君は彼と一緒に乗って来なくなったよね。どうしてかな。彼と何かあった?確か最後に来なくなったのは…七日前か。僕が彼に、体を許した日だね。



彼が僕に頼み込んできたんだ。『彼女のことなら何でも教えるから、一回でいいから抱かせて』って。もちろん僕はしてあげたよ。僕は彼にとって魅力的な人に写ったんだろうね。すっごい気持ちよさそうにしてたよ。終わったあとにね、『あなたが初めてで良かった』なんて言ってきたんだ。そういえば、その日からずっと僕にべったりだったなぁ。初めての次の日もしたけど、その日は泣いてたなぁ。何があったんだろう。まあ、どうでもいいや。前の土日は両方したっけなぁ。



今日はその二日分のお礼に、君をここに連れてきてもらったんだ。もちろん、君の両手両足の拘束もしてもらったんだ。ここまでくるのに二ヶ月。短かったような長かったような。ああ、緊張するなぁ。やっと言えるんだなぁ。じゃあ、言うよ。



『僕と付き合ってください』。



ああ、やっと言えた。あ、返事を聞いて無かったね。ガムテープが付いてるから言えないのも当然か、ごめんね。はい、剥がしたよ。え?『変態』、『泥棒』?なんでそんなこと言うの?



確かに彼とは何回もしたけど、僕は彼と付き合う気はないし、なんとも思ってない。ただの友達だよ。僕はいつだって君と一緒に居るため、君と幸せになるために頑張ったんだよ?身なりも整えて、鍛えて、君好みの人になれるよう頑張ったんだよ?



君がなんて言おうと構わない。でも、この気持ちを、今までの努力を否定することは、いくら君でも許せない。僕はいつだって君を想っていた。感じていた。



僕の気持ちは、恋心は、紛れもない『純愛』だよ。