日本は銃刀法禁止なのに、コイツはどうやって銃を……。
もしかして、俺はこの場で銃殺される?
いま店内の防犯カメラついてる?
店長〜〜!
事務所で防犯カメラを見てくれてる?
まさか、事務所でのんびりアイスを食いながらスマホゲームやってないよな……。
颯斗は雪崩のような急展開に追い詰められていき、身を震わせながら佇んでいた。
「颯斗さん、お願いします。私には時間がありません。この1分1秒さえ無駄に出来ない状態なので、一生のお願いを聞いてもらえませんか?」
俺はあっちこっちと気持ちが置いてけぼりを食らって精神状態が不安定になっていたが、彼女の切羽詰まった言い分に引っ掛かりを感じた。
「あのさ……。さっきから時間がないって。ま……、まさか死期が近い……とか」
「違いますけど……。理由は限りなくそれに近いです」
沙耶香は目を左右させながらグッと息を飲んだ。
しかし、沙耶香の切実な想いなど届かない颯斗は、信用出来ないあまりに疑いの眼差しを向けた。
「悪いけど、セレブのお遊びには付き合えない。こう見えてもバイトを掛け持ちしてて生活していくのにいっぱいいっぱいなんだ。俺はあんたの契約彼氏なんて務められない」
「誤解です。決してお遊びではありません。颯斗さんが好きなんです。一ヶ月間、あなただけに尽くしますから。たったの一ヶ月間だけでいいんです」
「ダメなものはダメ! 俺には生活がかかった貴重な時間をあんた一人の為に削る事は出来ない。だから、もう帰ってくれ」
「お願いします。好きなんです、好きなんです!」
「あのな……。無表情でオウムのように何回同じ言葉を繰り返してもダメ! 何度言っても俺の考えは変わらないからな」
向かって左側には胸ポケットに手を入れて俺を睨み続けてワナワナと身を震わせている全身黒づくめのサングラス男。
右側にはマネキンのように無言で立ち尽くしている全身黒づくめのサングラス男。(多分、左側の男と双子)
そして、真ん中には300万円を握りしめて、無茶苦茶な提案をするロボットのようなメガネ女。
俺が思うに……。
この三人は絶対マフィアだ。
万年貧乏の俺は、金という多大な権力で人生を振り回されそうになっている。
彼女と契約関係を成立させて300万円を受け取ってしまったら、この女は一ヶ月間散々俺を弄んだ挙句、不要になったらドラム缶のコンクリート風呂に漬け込むつもりだろう。
そんな惨めな人生を送るなんて嫌だ。
それならまだ貧乏の方が数千倍もマシだ。