場所は、田所代表取締役の自宅。

瓦屋根の格式高い日本家屋の敷地内を通り抜けた黒崎夫妻と娘の沙耶香は、二十畳ほどの和室部屋に通されて、田所夫妻と瞬の向かい側に座った。


気まずい空気が流れる中、沙耶香の父は恐縮しながら口を開いた。



黒崎父「先日は娘が大変ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした」

黒崎母「本当に申し訳ございませんでした」



父親と母親は先日の結婚式の件で深々と頭を下げるが、沙耶香は一点を見つめたまま頭を下げようとはしない。
田所の父親はギロリとした目線を流すと、異変に気付いた沙耶香の父親は眉を吊り上げて言う。



黒崎父「沙耶香、早く頭を下げなさい」

沙耶香「……」


黒崎父「大切な式をぶち壊したのはお前じゃないか。田所さんにさっさと謝りなさい」

田所母「いいのよ、沙耶香さん。元々結婚する気なんてなかったんでしょう。私達にはご縁のなかったという事で」



田所の母親が冷淡な目つきでそう言うと、沙耶香はくしゃりとスカートを握りしめた。



田所父「大変な騒ぎを起こしてくれましたね。この責任はどうやってお取りになるつもりですか」

黒崎父「本当に申し訳ございません。挙式はこちらの方で日を改めてセッティングさせていただきますので」

瞬「あのさぁ、そう言う問題じゃないんだよね。挙式をぶち壊してくれたお陰で俺のプライドがズタボロなの。あの後、どれだけマスコミに叩かれたと思う? SNSがどれだけ炎上したと思う? 俺が世間の笑い者になった責任をどうとってくれるの?」

黒崎母「何と申し上げたらいいか…。娘が大変なご迷惑をおかけして、頭が上がらない限りでございます」


田所父「今回の件は相殺できる話ではございません。お引き取り願います。誠に勝手ではございますが、業務提携の件についても白紙にさせていただきます」



田所の父親が離席しようとして不機嫌に腰を上げると、黒崎の父親が慌てて腰を上げた。



黒崎父「田所さん、待ってください。少しお時間を頂けないでしょうか?」

田所父「もう結構。お宅と話し合うつもりは一切ありません。どうかお引き取りを」


黒崎父「沙耶香! 何をしてる。早く田所さんに頭を下げなさい」

沙耶香「……」



薬指に光るケーブルタイ。
意思とは関係なく連れて来られた挙句に強要される謝罪。

悔しくもあるが、迷惑かけた事に変わりないと思い頭を傾けかかった。


ーーが、次の瞬間。