夕食と入浴を済ませ、自室へと転がり込む。部屋に鎮座されたベッドにダイブする。ボンッと音をたて、僕の体が少しだけ浮いて落ちる。

「あ〜、疲れたな」

 何もすることがないので、暇つぶしに携帯でネットサーフィンをする。

 『幽体離脱』と文字を打ち込むと数多くの検索結果が表示される。上から順に、『幽体離脱やり方』や『幽体離脱トレーニング』と出てくるが、どれも僕が求めている答えではない。

 別に幽体離脱をしたいわけではない。どうやったら、幽体離脱を終えることができるのか気になっただけなのに...

 そもそも幽体離脱を自発的に出来てしまうことに驚愕してしまう。本当かどうかは定かではないが、少しだけ興味を持ってしまった。

 彼女の眺めている世界がどんなのか見てみたくなったなんて、彼女の前では絶対に言えない。彼女だって、なりたくてなったわけではないはずだから。

 今日の帰り際に彼女が発した言葉が脳裏によぎる。「現実世界に戻りたいかわからない」という言葉が、僕の頭の中で反芻する。

 どうして彼女はあんなことを口にしたのだろうか。何に悩まされているのか僕にはわかるはずがない。

 できるなら、助けてあげたい。前までの自分には存在しなかった感情が、芽生え始めていた。

 きっと僕は、彼女を初めて視認した時から気になっていたのかもしれない。彼女のことが...

「そういえば、彼女は僕と別れた後どこに向かったんだ」

 彼女は僕と別れた後、どこかを目指すように歩いて行ってしまった。もしかしたら、自分の家かもしれないがそれはそれで辛くはないだろうか。

 目覚めない娘を抱える両親を客観的に眺めることしかできないなんて辛すぎる。僕なら家には帰らずにどこかの公園で時間を潰しているかもしれない。

 夜は怖いし孤独で寂しいけれど、そうするしか思いつかない。彼女の家族構成など詳しくは知らないが、少なくとも彼女の目覚めを待ち侘びてはいるだろう。

 携帯を眺めている間に睡魔が僕を襲う。瞼が閉じたり開いたり、うつろな状態を繰り返す。

「あぁ、やばい。寝落ちしそ・・・」

 静かな部屋に小さく囁かれる寝息。外は上空から雪が舞い降りて、街全体を白のベールで包み始める。

 彼女が今どこで何をしているのか、この時の僕は知る由も無かった。