空からポツリポツリと雪が舞い降りてくる。肌に触れた瞬間にひんやりとする感覚が、1年ぶりなのが懐かしい。

 僕にはこの冷たさが感じられるが、彼女には感じられない。そう思うと、肌に触れる雪よりも心の内側が冷えていく感じがした。

 僕らは今、学校を出て2人で歩いている。目的地などなく、ただどこまでも続く道をぶらぶらと。

「あのさ、何を助けて欲しいの?」

 僕は遠回しに表現したり、聞いたりするのが苦手だ。いつも話すときは確信的なところを突いて話すし、恋愛においてよく聞く『駆け引き』なんてものは大嫌いだ。

 よく思ってくれる人もいれば、デリカシーがないと言う人もいる。しかし、そんなことを言われたところで、僕の性格が次の日コロッと変わるなんて無理な話だ。

 ま、恋愛に関しては生まれてから1度も体験したことはないけれど。

 恋をしたら、変わってしまうかもしれないが...これだけは保証できない。

「言葉にすると難しい。私ね、現実世界に戻りたいかわからないの」

「何か理由があったりするの?無理に話したくなかったら、話さなくてもいいけど」

 いまいち彼女の表情が読み取れない。悩んでいるように見えて、何も考えていないようにも見えてしまう。

 僕らの進行方向から1台の自転車が、こちらへと向かってくる。

「んーっとね・・・」

「危ない!」

 自転車が彼女目掛けて突っ込んでこようとしていた。ぶつかりそうになるところで、彼女の腕を引っ張ろうとするが、何も掴めない。僕の手は宙を切っただけだった。

 当然実体を持たない彼女に触れることなどできないことはわかっている。それなのに、彼女が当たり前のように話すせいか、つい彼女に実体があると思い込んでしまった。

 自転車に乗っていた大学生くらいのお兄さんは、怪訝な表情をして僕の顔を見た後、幽霊でも見たかのような恐怖に満ちた顔で走り去ってしまった。

 多分、彼女が視えていたわけではないと思う。単純に僕の行動が怖かったのだろう。他人から見たら、何もない宙に手を伸ばし、何かを掴もうとしている風にしか見えないのだから。

「ご、ごめん。反射的に君を守ろうとしていた・・・」

「ううん。嬉しかったよ。私を生身の人間と同様に接してくれているのが、今のでよく伝わってきたよ。ありがとう」

 彼女の顔から哀しみが消えることはなかった。むしろ、先ほどよりもその色は濃くなっているように見えた。