「君は見つけて欲しかったの?」

 なぜこんな冷たいことを言ってしまったのか。数秒後に後悔したが、彼女の表情が変わることはなかった。

「んー、どうだろうね。見つけて欲しかったといえば、見つけて欲しかったかもしれない。みんな私のことが視えていなかったから、内心諦めていたしね」

 そうだよな。彼女は、春から冬までの数ヶ月間孤独だったんだ。それも誰の視界にも映ることのない完全なる孤独。

 僕には到底味わうことができない感覚。一体どれほどの辛さがあるのか、想像することもできない。

 自分の視界にはみんなの姿が映っているのに、一方で他者からは認識されない。それがどんなに残酷なことか...

「実はさ・・・僕、ずっと前から君のことが視えていたんだ。黙っていてごめん」

 彼女に対する同情からなのか、自然と本音を口にしていた。告げるつもりがなかったものだったのに。

「いいよ。そんなに気にしていないし、それに君が私のことが視えていることくらいかなり前から知っていたよ」

 思わぬカミングアウトに僕の方が驚かされてしまった。

「え、いつから?」

「うーん。あまり覚えていないけど、みんなが半袖のシャツを着ていた頃だから夏頃かな?」

 僕が彼女の姿が視えるようになった時期と一致する。もしかしたら、彼女はあえて僕に話しかけなかったのか。

 孤独は辛いはずなのに、どうして...

「な、なんでその時話しかけなかったの?」

「だってさ、考えてみてよ。交通事故で眠っているはずの私が隣にいて、君以外には視えてすらいないんだよ? そんな人にいきなり話しかけられたら、恐怖でしかなくない?」

 確かに。納得のいく理由に首を縦に振ってしまう。

「ほらね?だから、私は待ったんだ」

「何を待ったの?」

「私が君の日常にとって当たり前の存在になる日を」

 あぁ、そういうことか。簡単に言えば、『慣れ』ってことだろう。あり得ないことが起こったとしても、時間が解決してくれるように、彼女は僕が認識し存在を認める日を待っていたのだ。

 僕が彼女に話しかけられても怯えず、こうして現実世界の人と同じように話し合うことができる日が来るまで。

「君は強いね」

「強くないよ。強くないから、こうして幽体離脱しているんだと思う。だからさ、私を・・・」

 冬の寒さと同化して消え入りそうな『助けて』という囁き声を僕は聞き逃さなかった。正確には、一言一句逃したくなかったのかもしれない。