誰も人がいない。人影、人の足音さえ聞こえてこない。
校舎の離れにある、運動部が部室として使っている場所に僕は今1人でいる。
正確には僕からすると2人だ。僕以外には視えない彼女と一緒。
今日の授業は終わり、人目を避けるために一足先にこの場所にやってきた。
急いで済ませないと、この場所に運動部が集まってくるので、そうなってからでは非常に面倒。
まず、なぜこの状況に陥ってしまったのか。原因は朝のホームルーム時の僕にある。
別に彼女と関わることが嫌なわけではない。面倒ごとに巻き込まれてしまうのが嫌なだけである。
「あ、あの。花村佳奈さんで間違いないですよね?」
彼女の背中を追うこと5分。その間僕らの間には、一切の会話や目線すら交わすことすらなかった。
周りの人から見ると、ただ僕が1人で歩いているように見えてしまうが、実際は僕は彼女のあとをピッタリとくっつきながら歩いていた。
もし、彼女の姿をみんなが見えていたとしたら、僕は完全にストーカーみたいに見えてしまうに違いない。
僕の声に振り返る彼女。中学生と見間違えてしまいそうな幼い容姿に、ストレートに背中まで伸びる光沢のある黒い髪。
おまけに、身長もパッと見た感じ150センチもないだろう。
彼女がみんなの前に姿を現すことができたら、きっとすぐに学年のアイドル的存在に容姿だけで上り詰めてしまうのは容易いはず。
そのくらい彼女の持つ天性の見た目は、普段女子に無頓着な僕でも目を見開いてしまうくらいだった。
でも、彼女の容姿を知っている生徒は僕以外にはこの学校には存在しない。誰1人として。
彼女は、所謂転校生だった。それも、3年生の春に僕らの学校へと転校してきたのだ。噂によると、親の転勤の都合らしいが、その情報が定かであるかはわからない。
しかし、神様は彼女に微笑んではくれなかったらしい。転校初日の通学路で彼女は事故に遭ってしまったんだ。
待ちに待った日が、思いもよらぬ形で彼女の時間を奪い去ってしまった。
季節は既に夏、秋と巡ったが、彼女が目覚めたという噂は一切今日まで耳にすることはなかった。
僕だって、彼女が花村佳奈さんだと気付くにはだいぶ時間がかかったのだから。
「ありがとう」
彼女の第一声はよくわからないものだった。初めて聞く彼女の声に、背中がゾワッとしたと同時に頭には大量のクエスチョンマークが溢れ出した。
「なんでありがとうなの?」
「んー、そうだね。君だけが私を唯一見つけてくれた存在だからかな」
楽観的な彼女の言動に、僕の氷のように固くなった心が溶け始めた気がした。
校舎の離れにある、運動部が部室として使っている場所に僕は今1人でいる。
正確には僕からすると2人だ。僕以外には視えない彼女と一緒。
今日の授業は終わり、人目を避けるために一足先にこの場所にやってきた。
急いで済ませないと、この場所に運動部が集まってくるので、そうなってからでは非常に面倒。
まず、なぜこの状況に陥ってしまったのか。原因は朝のホームルーム時の僕にある。
別に彼女と関わることが嫌なわけではない。面倒ごとに巻き込まれてしまうのが嫌なだけである。
「あ、あの。花村佳奈さんで間違いないですよね?」
彼女の背中を追うこと5分。その間僕らの間には、一切の会話や目線すら交わすことすらなかった。
周りの人から見ると、ただ僕が1人で歩いているように見えてしまうが、実際は僕は彼女のあとをピッタリとくっつきながら歩いていた。
もし、彼女の姿をみんなが見えていたとしたら、僕は完全にストーカーみたいに見えてしまうに違いない。
僕の声に振り返る彼女。中学生と見間違えてしまいそうな幼い容姿に、ストレートに背中まで伸びる光沢のある黒い髪。
おまけに、身長もパッと見た感じ150センチもないだろう。
彼女がみんなの前に姿を現すことができたら、きっとすぐに学年のアイドル的存在に容姿だけで上り詰めてしまうのは容易いはず。
そのくらい彼女の持つ天性の見た目は、普段女子に無頓着な僕でも目を見開いてしまうくらいだった。
でも、彼女の容姿を知っている生徒は僕以外にはこの学校には存在しない。誰1人として。
彼女は、所謂転校生だった。それも、3年生の春に僕らの学校へと転校してきたのだ。噂によると、親の転勤の都合らしいが、その情報が定かであるかはわからない。
しかし、神様は彼女に微笑んではくれなかったらしい。転校初日の通学路で彼女は事故に遭ってしまったんだ。
待ちに待った日が、思いもよらぬ形で彼女の時間を奪い去ってしまった。
季節は既に夏、秋と巡ったが、彼女が目覚めたという噂は一切今日まで耳にすることはなかった。
僕だって、彼女が花村佳奈さんだと気付くにはだいぶ時間がかかったのだから。
「ありがとう」
彼女の第一声はよくわからないものだった。初めて聞く彼女の声に、背中がゾワッとしたと同時に頭には大量のクエスチョンマークが溢れ出した。
「なんでありがとうなの?」
「んー、そうだね。君だけが私を唯一見つけてくれた存在だからかな」
楽観的な彼女の言動に、僕の氷のように固くなった心が溶け始めた気がした。