「玲くん？」

「佳奈さんだよね？」

　周囲の視線が僕らに注がれる。中には、僕らの関係性を問う者や一瞬で興味を無くし、その場を立ち去っていく者など様々。

　でも、今はそんなことどうでもよかった。それよりも彼女はみんなの視界に入っている。ということは、彼女は目を覚ましたのか...

　嬉しさよりも僕は戸惑いの方が大きかった。それなら、どうして彼女は高校に来なくなってしまったのだ。

「玲くん。ごめんね、突然いなくなったりして・・・」

「ずっと君を探してたよ。よかった。また会うことができて・・・本当によかった」

「ねぇ、今から時間ある？」

「もちろん。さっき卒業式してきたから時間はたっぷりあるよ」

「じゃあさ、私について来てよ」

　彼女が歩き出す。それの背中を追うように僕も歩みを進める。どうやら彼女が待っていた人物は僕だったらしい。

　少しだけ頬が緩んでしまったが、今はこれ以上ニヤけないようにしよう。周囲から刺さる無数の敵意の込められた視線が痛すぎるから。

　女子の嫉妬も怖いが、男子の妬みもなかなか怖いものである。

　どこかに置いて来てしまった祐介には、メールで一応連絡はしておいた。返信は返って来てないが、たぶん今日の夜に怒涛の鬼電がかかってくることだろう。

　その時に全て話すことにするか。彼女が視えるようになってからの数ヶ月と夢のようなたった2日間の出来事を包み隠さず全て。

　背後から男子の無数の声が聞こえてくる。その全てが僕らの再会を祝福しているものであればいいのだけれど...

　数分歩いているが、一向に歩みを止めない彼女。久しぶりの再会すぎて、僕自身も何から話したらいいのか思いつかない。

　会えなくなった数ヶ月は、いろいろな想いを馳せていたのに、いざ対面すると頭が真っ白になってしまう。

「もう少しで着くよ」

　彼女の凜とした声に胸が震える。数ヶ月間待ち望んでいた彼女の声。

　耳から全身へと衝撃が走っていく。先ほどは、外野の野次などもあり聞き取りづらかったが、今は完全に2人きり。

「さぁ、着いたよ。私と玲くんのお気に入りの場所！」

「ここって・・・」

「そうだよ。あの日、私たちがお別れした場所。そして、これからの私たちの思い出の場所！」

　あの日と違うのは、まだ太陽が地平線に沈んではいないという点。陽光が家々を照らし、反射するように屋根が光って見える。

　夜も綺麗だが、日中も活気に満ちているようで美しい。

「ねぇ、玲くん」

「ん？」

「卒業おめでとう！　それと、私を待っていてくれてありがとう！」

　あぁ、そうか。僕は彼女の帰りをずっと願っていたのか。だから、諦めきれずに彼女と再会できる日を待ち望んでいた。

　気付けば僕の目から一粒の涙が頬を伝っていた。