「卒業式も終わっちゃったな」
祐介の一声に周りにいた卒業生たちにも伝染するように悲しみが広がっていく。
つい先ほど、最後のホームルームを終え、僕らはこの高校を巣立った。
当然、1人1人名前を呼ばれて卒業証書を受け取る場面に、彼女の名前が教室内に響くことはなかった。
わかっていたことだったけれど、彼女は数ヶ月間このクラスに確かに存在していた。
できるなら高校に来れなくとも、卒業式の日までこのクラスの一員としていて...
一体彼女は今どこにいるのだろうか。
「あぁ、そうだね」
「どうしたんだよ。珍しく玲がセンチメンタルになってるじゃん。そんなに卒業するのが、寂しいのか?」
「半分正解。半分不正解ってところかな」
「なんだそれ。ちなみにもう半分はなんなの?」
「会えなくなっちゃった人がいてさ。その人と卒業式を迎えたかったなって」
「ふーん。今日の卒業式休んでた人いたっけ?」
「何人かは空席あったね。でも、その人たちではないんだ」
「そっか。ま、どこかでまた会えるでしょ」
「そうだね・・・また会えたらいいね」
きっと祐介は、僕が想いを寄せている人を知らないだろう。共に数ヶ月クラスで過ごしていたけれど、僕にしか視えない彼女は誰からも覚えられていないのかもしれない。
「花子さん」この名称だけは、この先の人生においてもみんなの頭から消え去ることはないだろう。
それくらいインパクトに残ってしまうあだ名だった。
「なぁ、なんか校門前騒がしくない?」
「確かに少し人が集まっているね。なんだろう」
「俺らも見に行ってみようぜ!」
「もしかしたら、集合写真撮っているだけかもよ」
「そしたら、こっそり写ればいいじゃん」
「僕はいいかな。あまり写真好きじゃないし」
駆け足で向かっていく祐介をのんびりと歩きながら追いかける僕。まるで、散歩が嬉しくてはしゃいでいる犬と飼い主みたいだ。
すぐさま祐介に追いつく。遠目ではわからなかったが、かなりの人数が校門前に集っている。一体この人集りの先には何があるのだろうか。
それに異様なことに、この場にいるのは全員男子のみ。女子生徒は誰1人としておらず、結構離れた位置から眺めている程度。
『あれ誰だよ。あんな可愛い子見たことないぞ』
『誰を待ってんだろう、俺かな』
『お前、連絡先聞いてこいって』
『まじ、芸能人じゃないの?』
人混みから聞こえてくる言葉の多くは、男子の欲に塗れた言葉ばかり。止まることなく溢れてくる言葉から、この先にいる人物が女の子であることは理解できた。それも、一際可愛いくらいの。
隣にいる祐介も一目見ようと背伸びをしているが、生憎目の前には大勢の高身長男子の壁が立ちはだかっているため全く見えないらしい。
僕も一目見ようと、むさ苦しい男子の間をすり抜けていく。これなら、まだ中学生の時に1度だけ体験した東京の満員電車の方がマシかもしれない。
時間をかけ、ようやく人混みの最前列まで到達することができた。
男子たちは見ているだけで、誰も声をかけようとはしない。みんな、話しかけるのが怖いのか傍観しているだけ。
完全に芸能人みたいな扱いを受けている彼女。僕の立ち位置が悪いのか、後ろ姿しか見ることができない。
さらっさらの黒く伸びる髪の毛が、春の兆しを感じる風に揺られ目を奪われてしまう。振り子のように左右に揺れるのを男子たちは眺めているのだろう。
でも、なぜだろうか。僕にはその後ろ姿に見覚えがあった。誰と決めつけるくらいの確証はないが、うっすらと記憶の中で彼女の後ろ姿が思い出される。
「佳奈さん?」
僕の声は周囲の男子たちの声に比べると、明らかに小さかった。むしろ、僕の声などほぼほぼ消えていたに違いない。
僕の声は通じなかったが、どうやら願いだけは通じたらしい。ゆっくりとこちらを振り向く女の子。
その女の子はあの日、僕の前から突然姿を消した花村佳奈だった。
祐介の一声に周りにいた卒業生たちにも伝染するように悲しみが広がっていく。
つい先ほど、最後のホームルームを終え、僕らはこの高校を巣立った。
当然、1人1人名前を呼ばれて卒業証書を受け取る場面に、彼女の名前が教室内に響くことはなかった。
わかっていたことだったけれど、彼女は数ヶ月間このクラスに確かに存在していた。
できるなら高校に来れなくとも、卒業式の日までこのクラスの一員としていて...
一体彼女は今どこにいるのだろうか。
「あぁ、そうだね」
「どうしたんだよ。珍しく玲がセンチメンタルになってるじゃん。そんなに卒業するのが、寂しいのか?」
「半分正解。半分不正解ってところかな」
「なんだそれ。ちなみにもう半分はなんなの?」
「会えなくなっちゃった人がいてさ。その人と卒業式を迎えたかったなって」
「ふーん。今日の卒業式休んでた人いたっけ?」
「何人かは空席あったね。でも、その人たちではないんだ」
「そっか。ま、どこかでまた会えるでしょ」
「そうだね・・・また会えたらいいね」
きっと祐介は、僕が想いを寄せている人を知らないだろう。共に数ヶ月クラスで過ごしていたけれど、僕にしか視えない彼女は誰からも覚えられていないのかもしれない。
「花子さん」この名称だけは、この先の人生においてもみんなの頭から消え去ることはないだろう。
それくらいインパクトに残ってしまうあだ名だった。
「なぁ、なんか校門前騒がしくない?」
「確かに少し人が集まっているね。なんだろう」
「俺らも見に行ってみようぜ!」
「もしかしたら、集合写真撮っているだけかもよ」
「そしたら、こっそり写ればいいじゃん」
「僕はいいかな。あまり写真好きじゃないし」
駆け足で向かっていく祐介をのんびりと歩きながら追いかける僕。まるで、散歩が嬉しくてはしゃいでいる犬と飼い主みたいだ。
すぐさま祐介に追いつく。遠目ではわからなかったが、かなりの人数が校門前に集っている。一体この人集りの先には何があるのだろうか。
それに異様なことに、この場にいるのは全員男子のみ。女子生徒は誰1人としておらず、結構離れた位置から眺めている程度。
『あれ誰だよ。あんな可愛い子見たことないぞ』
『誰を待ってんだろう、俺かな』
『お前、連絡先聞いてこいって』
『まじ、芸能人じゃないの?』
人混みから聞こえてくる言葉の多くは、男子の欲に塗れた言葉ばかり。止まることなく溢れてくる言葉から、この先にいる人物が女の子であることは理解できた。それも、一際可愛いくらいの。
隣にいる祐介も一目見ようと背伸びをしているが、生憎目の前には大勢の高身長男子の壁が立ちはだかっているため全く見えないらしい。
僕も一目見ようと、むさ苦しい男子の間をすり抜けていく。これなら、まだ中学生の時に1度だけ体験した東京の満員電車の方がマシかもしれない。
時間をかけ、ようやく人混みの最前列まで到達することができた。
男子たちは見ているだけで、誰も声をかけようとはしない。みんな、話しかけるのが怖いのか傍観しているだけ。
完全に芸能人みたいな扱いを受けている彼女。僕の立ち位置が悪いのか、後ろ姿しか見ることができない。
さらっさらの黒く伸びる髪の毛が、春の兆しを感じる風に揺られ目を奪われてしまう。振り子のように左右に揺れるのを男子たちは眺めているのだろう。
でも、なぜだろうか。僕にはその後ろ姿に見覚えがあった。誰と決めつけるくらいの確証はないが、うっすらと記憶の中で彼女の後ろ姿が思い出される。
「佳奈さん?」
僕の声は周囲の男子たちの声に比べると、明らかに小さかった。むしろ、僕の声などほぼほぼ消えていたに違いない。
僕の声は通じなかったが、どうやら願いだけは通じたらしい。ゆっくりとこちらを振り向く女の子。
その女の子はあの日、僕の前から突然姿を消した花村佳奈だった。