「着いたよ」
「え、ここなの?」
「そうだよ。特別な場所ではないけれど、僕にとっては特別な場所なんだ」
僕の特別な場所...それは、どこにでもありふれた高台にあるベンチひとつと滑り台しかない小さな公園。
時々、学校の帰りに暇潰しとして訪れる僕の隠れ家的存在の場所。
街全体の様子を一望できるこの場所を知っている人は、意外と少ない。僕もたまたまこの場所を散歩していなかったら、見つけることはできなかったであろう。
「何ここ! すごい綺麗なんだけど!」
隣には大興奮の様子の彼女。人が落ちないように設置されている柵に、体を乗せるようにして身を前に乗り出そうとしている。
もちろん、彼女が柵に触れることはないが、もし彼女が本物の彼女だったらかなり心配。
「綺麗だよね。ひとつひとつの家の光が夜景として見えるんだよね。あの家々の中でもそれぞれの物語があるって考えると面白いよね」
「物語?」
「そうそう。家族によってはさ、育て方とかによって進むべき人生って違うわけじゃん?みんなが同じ人生を歩むわけではないでしょ。それが、僕は面白いと思う。例えば、佳奈さんの家にも進むべき未来があり、僕の家にも進むべき違った未来が存在する。それってさ、物語と一緒だよね」
「確かにそうかもしれない」
「でしょ?だから、佳奈さんにもこれからの物語がちゃんとあるんだよ。今まで歩んできた物語もあるだろうけれど、未来への物語はこれから佳奈さん自身が築き上げていくんだ。そう考えると、少しだけワクワクしない?」
「私の物語・・・」
「そうだよ。君だけの物語さ。まだ僕たちの物語は始まったばかりなんだよ。何も身につけていない。これから少しずつ自分を守るための装備を身につけていくんだ。だから、恐れることはないよ。だって、僕たちはまだ高校生なんだから」
彼女の体がさっきよりも薄まって見える気がする。僕の目がおかしくなったのかと思い、何度も目を擦ってみたが現実は変わらない。
「どうやら、お別れみたいね。玲くんと過ごした時間は短かったけれど、とても楽しかった。ありがとう」
何を言っているのだろうか。なぜ、僕らの未来はまだ続いていくのに、別れの挨拶みたいな言葉を彼女は発しているんだ。
「どういうことだよ!なんで、どうして・・・」
「たぶん、私の身に何かがあったんだと思う。どんな状況なのか私にもわからない。だから、そうなってしまう前に感謝の気持ちを伝えておきたい。私ね、玲くんと過ごして、生きて玲くんと過ごしたいと思っちゃった。きっと玲くんの隣で過ごすことができたら、楽しいに決まっているよね」
「嘘だよね。いなくなったりしないでよ。せっかく君に話しかけることができたのに・・・」
「私を視ることができるのが、玲くんでよかった。本当にありが・・・」
街の光に飲み込まれてしまうかのように、彼女は静かに僕の目の前から姿を消した。
別れの言葉すら言えないまま僕は彼女が、ここにいた温もりさえ感じることができないまま呆然と立ち尽くした。
夜が更けていく。そして、僕も夜へと消えていく。最初から、この場所には誰も存在しなかった静けさだけを取り残して。
「え、ここなの?」
「そうだよ。特別な場所ではないけれど、僕にとっては特別な場所なんだ」
僕の特別な場所...それは、どこにでもありふれた高台にあるベンチひとつと滑り台しかない小さな公園。
時々、学校の帰りに暇潰しとして訪れる僕の隠れ家的存在の場所。
街全体の様子を一望できるこの場所を知っている人は、意外と少ない。僕もたまたまこの場所を散歩していなかったら、見つけることはできなかったであろう。
「何ここ! すごい綺麗なんだけど!」
隣には大興奮の様子の彼女。人が落ちないように設置されている柵に、体を乗せるようにして身を前に乗り出そうとしている。
もちろん、彼女が柵に触れることはないが、もし彼女が本物の彼女だったらかなり心配。
「綺麗だよね。ひとつひとつの家の光が夜景として見えるんだよね。あの家々の中でもそれぞれの物語があるって考えると面白いよね」
「物語?」
「そうそう。家族によってはさ、育て方とかによって進むべき人生って違うわけじゃん?みんなが同じ人生を歩むわけではないでしょ。それが、僕は面白いと思う。例えば、佳奈さんの家にも進むべき未来があり、僕の家にも進むべき違った未来が存在する。それってさ、物語と一緒だよね」
「確かにそうかもしれない」
「でしょ?だから、佳奈さんにもこれからの物語がちゃんとあるんだよ。今まで歩んできた物語もあるだろうけれど、未来への物語はこれから佳奈さん自身が築き上げていくんだ。そう考えると、少しだけワクワクしない?」
「私の物語・・・」
「そうだよ。君だけの物語さ。まだ僕たちの物語は始まったばかりなんだよ。何も身につけていない。これから少しずつ自分を守るための装備を身につけていくんだ。だから、恐れることはないよ。だって、僕たちはまだ高校生なんだから」
彼女の体がさっきよりも薄まって見える気がする。僕の目がおかしくなったのかと思い、何度も目を擦ってみたが現実は変わらない。
「どうやら、お別れみたいね。玲くんと過ごした時間は短かったけれど、とても楽しかった。ありがとう」
何を言っているのだろうか。なぜ、僕らの未来はまだ続いていくのに、別れの挨拶みたいな言葉を彼女は発しているんだ。
「どういうことだよ!なんで、どうして・・・」
「たぶん、私の身に何かがあったんだと思う。どんな状況なのか私にもわからない。だから、そうなってしまう前に感謝の気持ちを伝えておきたい。私ね、玲くんと過ごして、生きて玲くんと過ごしたいと思っちゃった。きっと玲くんの隣で過ごすことができたら、楽しいに決まっているよね」
「嘘だよね。いなくなったりしないでよ。せっかく君に話しかけることができたのに・・・」
「私を視ることができるのが、玲くんでよかった。本当にありが・・・」
街の光に飲み込まれてしまうかのように、彼女は静かに僕の目の前から姿を消した。
別れの言葉すら言えないまま僕は彼女が、ここにいた温もりさえ感じることができないまま呆然と立ち尽くした。
夜が更けていく。そして、僕も夜へと消えていく。最初から、この場所には誰も存在しなかった静けさだけを取り残して。