今日の授業も残りわずか。彼女とはまだ話すことができていない。それも、彼女と話そうにも彼女が席から立つことがないため、話しかけるチャンスが一向に訪れないのだ。

 流石に、人前で話しかけるのは気が引けるし、そもそも僕が変な目で見られることは間違いないだろう。

 それだけはなんとしても避けなければならない。卒業までの残り数ヶ月を穏便に過ごすためには。

 一体どうしたら、自然に彼女とコミュニケーションを取れるのだろうか。せめて、「今日一緒に帰りませんか」とだけ伝えたい。

 声に出すのも、紙に書いて机の上に置くのも、手に書いて見せるのもダメだ。どれも不自然すぎるし、何より他のクラスメイトにバレる可能性が高い。

 となると、残された手段はひとつしかない。自分のノートに書いて見てもらうしか...

 でも、これには彼女の協力も必要だ。彼女の机に置くわけにもいかないので、必然的に僕の机を見てもらう必要がある。

 しかし、彼女は1度たりともこちらを見ようとはしない。まるで、僕が空気に扱われしまっている気分。

 どうにかして彼女に見てもらう必要があるのだが...

「あっ!」

 またしても言葉にしてしまった。彼女と視線が交わったあの時を彷彿させられる。

 今回は、彼女と目が合ったからではなく、名案が思い浮かんだだけだったのに...

 あぁ、またしても目が合ってしまった。優しく微笑む彼女に周囲にバレないように、そっと僕のノートにメモした一文を彼女に見せる。

 『今日、一緒に帰ろうよ』という青春らしい言葉を彼女に。

 ノートを見た彼女の顔を僕は一生忘れることはないだろう。気付いてしまった。助けたいと思う気持ちの裏に隠れていた本当の気持ちに。

 僕は彼女に恋をしていた。自覚するのが、恥ずかしかった。それに怖かったのかもしれない。目が覚めない彼女に恋をしてしまったいる自分自身が。

 それすらも全て忘れ去ってしまうくらい、透明に透けるように見えた彼女の笑顔は、僕の心を簡単に打ち砕いてしまうほどの破壊力を伴っていたんだ。