「ふーん。そんなにあたしのことが必要なら、特別に一緒に行ってあげないこともないけど?」

 と、そこへ聞き慣れた生意気な声が届く。
 二人がほぼ同時に後ろを振り返ると、参道の先には一人の少女——マツリカが立っていた。
 相変わらずパンク系ファッションに身を包んだ彼女は、まるで寒さなど感じていないかのように白い太ももを露わにしている。

「マツリカ……。お前まさか、俺たちの話を聞いてたのか?」

 気まずい顔で栗丘が尋ねると、彼女は悪戯(いたずら)っぽく八重歯を覗かせて笑った。

「別にあんたたちの会話を盗み聞きしたんじゃなくて、ミカゲから全部聞いたんだよ。十年ごとに開く特別な『門』の話も、あんたの父親のこともぜーんぶ」

 その発言から、絢永は推察する。

「ということは、御影さんも、マツリカさんを一緒に連れて行くことに決めたのでしょうね」

 直前まで、御影はマツリカの身を危険に晒すことに消極的だった。
 しかし門の場所を予測するには彼女の嗅覚が不可欠である。
 さらに言えば、彼女が常々望んでいた『門の向こう側』へ干渉する機会を、このまま彼女に黙っているべきかどうかで悩んでいたのだ。

「マツリカさんの意思を尊重するなら、僕も、彼女を一緒に連れて行くことに賛成です」

「そういうこと! 十年に一度しか開かないなら、このチャンスを逃す手はないでしょ。十年後なんて、自分が生きてる保証だってないんだから」

 彼女本人がその気であり、後見人である御影が了承しているのなら、それを否定する理由はないと栗丘は思った。

「なら、みんなで行くか。大晦日のあやかし退治。もとい、栗丘瑛太の奪還作戦!」

「何そのネーミング。超ダサいんですけど」

「いっ、いいだろ別に!」

 そんなやり取りを見て、絢永はくすりと小さく笑った。

「ちなみにミカゲはまだICUに入ってるから面会はできないよ。連絡を入れるならスマホに、だってさ。でも大晦日の昼までには何が何でも退院するって」

「また無茶ばっかりしてあの人は……」

「俺たちも当日は万全の態勢で臨めるようにしなきゃな。ってわけで、ちゃんと体力を付けるためにもまずは腹ごしらえしようぜ!」

 わいわいと明るい声を響かせながら、彼らは肩を並べてその場を後にする。

 やがて境内には雪がしんしんと降り積もり、世界は白一色で満たされる。
 さらにそこから数日をかけ、雪が完全に解ける頃、一年の最後を飾る運命の日は、太陽と共にやってきた。