「子どもにとっての親という存在が、思ったよりも大きいと気づいたからさ。……マツリカがいつも言っていたんだ。自分の親のことを、ちゃんと知りたいって」

 マツリカ。
 彼女は両親が憑代であったことから、自身の出生についても疑問を抱き、悩んでいた。

「私はもともと、家族や親子というものにそれほど思い入れがなかった。だから最初は、栗丘くんにも絢永くんにも、過去の真実を全て伝える必要はないと考えていたんだ。たとえ血の繋がった家族のことでも、知らない方が幸せなことだってある。絢永くんは仇のあやかしさえ退治できればそれでいいし、栗丘くんに至っては二十年前のことをすべて隠蔽してしまえば問題ないと思っていた。でも……マツリカを見ている内に、それは間違いなんじゃないかと思うようになった。たとえどれだけ悲しい現実があったとしても、子どもが親のことを知りたがるのは当たり前のことなんじゃないかって……。実際、栗丘くんは二十年前の事件の真相をずっと知りたがっていたしね」

 マツリカと共に暮らす内に、御影に訪れた変化。
 それは二十年にも及ぶ信念すら揺るがす程の、大きな影響力を持っていたらしい。

「だから私は、君たちの様子を見ながら、少しずつ情報を提供していこうと考えたんだ。君たちが本当にそれを望むなら、たとえロクでもない現実でも、真実を伝えようと。……もちろん、正しい判断だったとは口が裂けても言えない。君たちにはたくさん辛い思いをさせてしまったからね。もしも私に少しでも償いができるとしたら、大晦日の夜に体を張ることぐらいしかできないのさ」

「償いなんて、そんなのいりません。俺はずっと真実が知りたかったんです。父のことは……確かにショックでしたけど。それでも、知って後悔はしていません。だから、御影さんにも犠牲になってほしくありません」

「僕も同じです」

 二人の意思を受けて、御影は小さく息を吐く。

「君たちがそう言うと思っていたからこそ、私は二つ目の案を考えたんだ。……ただしこれは、君たちにも多大な危険が伴う。成功すれば全員が生きて帰れるかもしれないが、失敗すれば我々は全滅する可能性もある。いわば諸刃(もろは)の剣さ。出来るなら私は、君たちにはこの先も生き残って、この部署を存続させてほしいと思っている。でも、どちらの案を採用するかは君たちの意思に任せる。今度のクリスマスまでに、返事を考えてきてほしい」