「だからって、あんな……人を警察犬みたいな扱い方する? 事件が起こる度にあたしを呼び出して、あやかしのニオイを追わせるなんて」
「ご褒美のお菓子に釣られて、君も乗り気だっただろう。むしろ小腹が空く度に捜査させろとせがんでいたのは君の方だったはずだが?」
「そんな昔のことはいいの! あたしはもう、絶対に警察に協力なんかしてやらないんだから!!」
ぷいっとそっぽを向く彼女を見て、平泉は笑いながら肩を竦めた。
「……御影は、君に出会って変わったよ。少なくとも、あいつにとって君が特別な存在であることは間違いない」
「は? 何それ、キモ。もしかしてあいつロリコンなんじゃないの?」
情け容赦ない彼女の反応に、さすがは反抗期の女の子だと、平泉は内心で舌を巻く。
「君は本当に頑なだな……。もう少しくらい、御影に歩み寄ってやってもいいんじゃないか? 児童養護施設でさえ手に余った君のことを、あいつは嫌な顔一つせずに受け入れたんだぞ?」
「別に頼んでないし。それこそ嫌なら断れば良かったじゃん」
「あいつは自分のことには疎いからな。……今回の怪我だって、下手をすれば命はなかった。あいつは図太いようでいて、実は脆い。今回のことでわかったとは思うが、急に死んだっておかしくないような奴だ」
「あいつが死ぬ? 絶対ないでしょ。殺しても死ななさそうな奴なのに」
ハッと笑い捨てるように言うマツリカ。
それを嗜めるように、平泉は真面目な声で言う。
「今年の大晦日に、また大きな事件が起こる。それまでに体の回復が間に合うかどうかはわからないが、あいつはどんな状態でも現場に向かうだろう。……今のうちに、君もあいつと色々話しておいた方がいいんじゃないか。後になって後悔しても遅いからな」
言い終えるのとほぼ同時に、車は御影とマツリカの住む自宅へと到着した。
マツリカは礼も言わずに車を降りると、そのまま振り返りもせずに門を潜る。
平泉は車を発進させようとしたが、直前で「ねえ」とマツリカに呼び止められる。
彼が声の聞こえた方を見ると、マツリカは階段を上った先にある玄関ポーチの所からこちらを見下ろしていた。
「あんたにも子どもがいるんでしょ」
唐突な質問だったが、平泉は特に驚いた様子もなく答える。
「ああ。可愛い一人娘がな」
「じゃあさ」
マツリカは一瞬だけ言い淀んでから、わずかに視線を逸らせて聞く。
「親って、何なの?」
その問いに、平泉は少しだけ意外そうな顔をした。
それから口元に小さく笑みを浮かべ、「愚問だな」と前置きして言う。
「この世界で誰よりも、娘の幸せを願う者のことさ」