無知は罪だという言葉を、ここまで痛感したのは初めてかもしれない。

「俺は今まで、本気で何かと向き合う時は、絶対に目を逸らしちゃいけないんだと思ってた。どんな物事にも嫌な面はあるけど、そういうのも引っくるめて、全てを受け入れなきゃいけないと思ってた。でも……それは、俺が何も知らないから、そんな風に思えていただけだったんだ。世の中には、どうしようもないこともあって、何もかもを受け入れようとするのが正解じゃない場合もある。……お前をこんな風に傷つけるぐらいなら、俺は、最初から何も知らないフリをした方が良かったんじゃないかって——」

「ちがう!」

 再び顔を上げた絢永は、キッと栗丘を睨みつけた。

「僕は真実を探していたんです! 都合の良い嘘なんていらない……。あなただってそうでしょう!」

 そう指摘されると、栗丘は否定できなかった。
 どれだけ辛い現実があったとしても、それを知らずに、嘘の世界で満足できるとは自分は思えない。
 それは絢永も同じだったようだ。

「あなたは、真実を知ったからといって、今さら逃げるんですか? 違いますよね。今まで僕が見てきた栗丘センパイは、そんな人じゃなかったはずだ」

 言いながら、絢永は再びその場に立ち上がる。
 すらりとした長身が、いつものように栗丘を見下ろした。

「あなたはずっと、父親の真相を追っていたんでしょう。そして最後まで見届けるつもりでいるんでしょう。あなたが本当に、過去の事件と本気で向き合うつもりだというのなら、地獄の底まで、僕と一緒についてきてもらいますよ」

 そう言って、彼は右手を差し出す。

「……俺なんかが、お前の隣にいていいのか?」

「それはこっちのセリフです。僕はいずれ、あなたの父親を殺すことになるかもしれない……。それでも、あなたは僕と共に来る覚悟がありますか?」

 その言葉を聞いて、栗丘は腹を括った。

 過去は変えられない。
 自分の父親が罪を犯したというのなら、その業を背負うのは他でもない、実の息子である自分の役目だと思った。

 絢永から差し出された手に、栗丘は同じように右手を重ねて、二人は互いの手を固く握り合った。

「大晦日の夜に、百鬼夜行が起こると言っていましたよね。具体的にどうするかという話は、御影さんから聞いていますか?」

「いや。その話はまだちゃんとしてなかったんだ。俺が父親のことで悩んでばかりいたから……。まさか御影さんが、こんなことになるなんて……」

 御影はまだ眠っている。
 命に別状はないらしいが、回復にどれだけ時間がかかるかはわからない。

 すでに十二月も半ばを過ぎて、大晦日までの日数はあまり残されていない。
 果たして間に合うのか、と不安を抱える二人の元へ、

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと策は練ってあるから、心配はいらないよ」

 と、ひどく聞き覚えのある飄々とした声が届いた。