再び生まれたその隙を、栗丘は見逃さなかった。
 絢永が御影に気を取られている内に、栗丘は懐から取り出した未使用の銃を構える。
 半ば放心したままの絢永の背後には、舌舐めずりをする蛇の本体が顔を覗かせていた。

 ドン! と重い音を上げ、銃口からトドメの一発を放つ。
 弾は寸分の狂いもなく、蛇の頭を撃ち抜いて粉砕した。

 途端に気を失った絢永が膝から崩れ、その場に俯せに倒れる。

「やったか!?」

 すかさず立ち上がった栗丘は彼の元へ駆け寄り、今度こそ蛇の気配がなくなったかどうかを確かめる。

「……大丈夫。そのあやかしは……もう死んでいるよ」

 か細い声で、御影が言った。
 それを耳にした栗丘は弾かれたように彼の元へ戻り、そっと肩を抱きかかえる。

「御影さん! 無事だったんですか!?」

 まだ息はある。
 しかし出血の量からすると、けして安心できる状況ではない。

「今のあやかしは、おそらく双頭の蛇……。急所となる頭の部分が二つあったから、絢永くんは仕留め損ねたんだね……」

「もう喋らないでください。今すぐ誰か呼んで来ますから……!」

 そう言って駆け出そうとする栗丘の腕を、御影は力なく掴む。

「栗丘くん」

 狐の面の奥から、確かな視線が栗丘を引き留める。

「悪かったね……予定が狂ったんだ」

「なに言ってるんですか。ていうか、どうして俺なんかを庇ったりしたんですか。あなたは、目的のためならどんな手段だって使う人なのに」

「君は……私の大事な、相棒の息子だからね。……ここで死なせるわけにはいかないよ」

「相棒の、息子?」

 予想外の言葉に、栗丘は胸の早鐘を聞く。

「それって、つまり……。俺の父親と、御影さんが相棒だったってことですか?」

 問いかけに答えようとした御影の口から、咳とともに鮮血が溢れる。
 面の外にまで流れ出たその赤を目にして、栗丘は息を呑んだ。

「……これでも、けっこう良いコンビだったんだよ。……君は、ちゃんとあの人の面影があるね……」

 こちらに伸ばされた御影の右手が、震えながら栗丘の頬に触れる。
 ぬるりとしたその感触で、栗丘は自分の頬が血に塗れていることを知った。

「懐かしいなぁ……。……栗丘……先輩……」

 そこでふつりと糸が切れたように、御影の腕が力なく床に落ちた。

「御影さん? ……御影さん!!」

 何度呼びかけても、反応はない。

 そのうち廊下の方が騒がしくなり、複数の足音がこちらへ向かってくる。

「銃声が聞こえたぞ!」

「こっちの方だ。小会議室に誰かいるぞ!」

 他の警察官たちが集まってくる。

 部屋には絢永を含め、あやかしに襲われて気を失った男性が三人。
 そして銃弾に倒れた御影と、血塗れの自分。

「うあ……あ……」

 血が止まらない。

 この状況を、誰に何と言って説明すればいいのかもわからない。

 栗丘の周りには今、頼れる人間は誰一人としていなかった。