現時点でわかっている全てのことを、栗丘は正直に打ち明けた。
絢永の追っているあやかしが大晦日の夜に現れること。
そのあやかしの憑代が栗丘の父親であること。
十年前に絢永の家族を殺したのも、父親である栗丘瑛太であること。
話し終えるまでの間、絢永は栗丘の顔から片時も視線を外さなかった。
「……そんな大事なこと、どうして話してくれなかったんですか」
言い訳する余地はなかった。
絢永の疑問は最もである。
「知ってて今まで黙っていたんですか?」
失望するようなその声に、栗丘は顔を上げることすらできない。
本来なら誰よりも先に、絢永にこのことを伝えるべきだったのに。
「あなたさっき、人間とあやかしが一緒に生きることはできないのかと言ってましたよね。あれはつまり……あなたの父親の罪を、僕に見逃してほしいと、そういう意味で言ったんですか?」
聞かれて、背筋が凍りつく。
許してほしいと思ったわけじゃない。
けれど、被害者である絢永からすればそう取られてもおかしくはない失言を、栗丘は口にしてしまったのだ。
「ち、違う! お前が俺の父親のことを許せないのはわかってる! ただ俺はっ……」
慌てて顔を上げた栗丘は、そこに見えた光景に思わず言葉を失った。
「……僕の悲しみが少しでも晴れるのなら復讐するべきだと、そう言っていましたよね。あれも嘘だったんですか?」
氷のように冷たい声で言った絢永の手には、黒光りする拳銃が握られていた。
対あやかし用ではない、警察官の大半が所持しているものだ。
その銃口はまっすぐに栗丘を狙っている。
「あなたなら信用できると思ったのに……。残念です」
わずかに声を震わせながら、絢永はその美しい瞳から一筋の涙を流す。
そのとき初めて、栗丘は気づいた。
絢永の体から、つい先ほど倒したはずの、蛇のあやかしの気配が漂っていることに。
「絢永、お前……あやかしに憑かれていたのか!?」
「さようなら、栗丘センパイ」
栗丘が避ける暇もなく、絢永は引き金を引いた。
実弾を発射する火薬の轟音が、建物全体に響き渡る。
撃たれた、と思った。
しかし衝撃はない。
代わりに弾丸を受け止めたのは、寸でのところで部屋の入口から飛び込んできた、大きな影だった。
それは撃たれた反動で、栗丘の小さな体へ覆い被さるようにして倒れてくる。
「うわ、わっ」
目の前の巨体を受け止めきれず、栗丘も後ろ向きに倒れる。
頭と背中をしたたかに打ち付け、その鈍い痛みに耐えながら、改めて状況を確認する。
栗丘の胸に顔を埋めるようにして倒れていたのは、和装の男性だった。
その顔には見慣れた狐の面が付いている。
「……御影、さん?」
どうやら背中を撃たれたらしい。
着物の背面にはじわじわと赤い色が広がり、だらりと投げ出された四肢はぴくりとも動かない。
「そんな……、どうして。なんであなたが、俺を庇って……」
混乱する栗丘の正面で、絢永もまた、銃を構えたまま驚愕の表情を浮かべている。
「御影さん……? どうして……」