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結局、マツリカからはそれ以上御影に関する有力な情報を得ることはできなかった。
帰りは時間も遅かったので、栗丘が彼女の家まで送ろうとしたが、最寄り駅に着いたところで「ついてくんな!」と本人から全力で拒否され、強制的にそこで別れることになった。
栗丘が自宅に戻ったのは二十三時近くだった。
翌日も仕事なので、さっさとシャワーを浴びて寝よう——と、リビングの引き戸を開けたところで、
「おかえり。遅かったね、栗丘くん」
今はあまり聞きたくない声が出迎える。
声の出所は、白いもふもふ。
実は死んでいるらしいその小さな獣は、細長い胴体をヒモでぐるぐる巻きにされ、ダイニングテーブルの脚に繋がれていた。
「ひどいじゃないか。キュー太郎くんをここに置いていくなんて」
「連れて行ったらあなた、俺の行動を覗き見してたでしょう」
マツリカとの会話を御影に聞かれることを恐れた栗丘は、出掛ける前にキュー太郎をこの状態にしていたのだった。
キュー太郎の体を通して、御影はこちらを見つめながら「ふふふ」と笑って言う。
「覗き見だなんて人聞きの悪い。それに、もし出先であやかしに襲われたらどうするつもりだったんだい? 君は特に狙われやすい体質なんだから、常に私の目があった方が安全だろう」
「俺にもプライベートってものがあるんですよ」
「まあ、そうだね。君はまだ若いし、女の子と遊ぶ時間も大切だよね。それで、マツリカとのデートは楽しかったかい?」
「……知ってたんですか」
すべてお見通しだと言わんばかりの御影に、栗丘は辟易する。
「私は彼女の保護者だからね。彼女のスケジュールを把握しておくのも大事な仕事さ」
「年頃の女の子のプライベートを詮索するのは、さすがに趣味が悪いですよ。そんなんだから、マツリカにも嫌われるんじゃないんですか?」
「ふふ。痛いところを突くねえ。これでも彼女には優しく接しているつもりなんだけどなぁ」
『優しい』という言葉がここまで似合わない人間も珍しいな、と栗丘は思う。
「……マツリカを使って実験してたっていうのは、本当なんですか?」
「ああ、そんなこともあったかなぁ」
否定しないところを見ると、彼女の言っていたことはどうやら本当のようだ。
「どうしてそんなことまでするんですか。あなたの目的は、一体何なんですか」
「目的? そんなの決まってるじゃないか。あやかしを退治することだよ」
「それにしたって、やり方ってものがあるでしょう。わざわざ俺たちを騙したり、マツリカを利用したりしなくても……」
「君の父親は手強いよ。全力で立ち向かわなければ、こちらが返り討ちにされてしまう」
そう言われてしまうと、栗丘も返す言葉がなかった。
御影がこれほどまでに手段を選ばない理由が、自分の父親のせいかもしれないと思うと、罪悪感の方が勝ってしまう。
「それで、君はどうするのか決めたのかい?」
不意に御影が聞いて、栗丘はその質問の意図を図りかねる。
「どうって……」
「実の父親を殺す覚悟はできたのかな?」