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翌週の初め、十二月に入ってすぐ。
仕事を終えて祖母の見舞いも済ませた栗丘は、白い息を吐きながら慌てて約束の場所へと向かった。
「ごめん、待たせた!」
「おっそーい。一分遅刻! 罰として今日はお土産も買ってもらうから!」
駅前で仁王立ちして待っていたマツリカは、いつものパンク系ファッションの上から大きめのパーカーを羽織っていた。
被ったフードの部分には猫耳が付いており、それがやけに似合っている。
(ほんと、見た目だけは可愛いんだよな……こいつ)
今年の気温は例年よりも低いらしく、今にも雪が降りそうだった。
とにかく早く店に入ろう、と二人は足早にそこへ向かう。
栗丘が案内したのは、いかにも女性ウケが良さそうなダイニングカフェだった。
野菜をふんだんに使った健康志向のメニューが並び、夜にはコース料理が選べるようになっている。
「んー。四〇点ってとこかな」
「そんなにダメか?」
思いのほか低い評価に栗丘はショックを受ける。
今時の女の子の好みはわからないが、わからないなりに色々調べて吟味したつもりだったのに。
しかしマツリカも空腹ではあるらしく、大人しく席に着いてメニュー表を眺める。
それぞれ別のコース料理を一つずつ注文すると、二人は改めて本題に入った。
「……あたしは、あたし自身の正体が知りたいの」
マツリカが言った。
以前SNSで栗丘が質問した、『なぜ門の向こう側に行きたいのか』に対する答えだった。
「正体? なんだそれ。超わがままな女だっていうのはわかってるけど……」
「そうじゃなくて、あたしが本当に『人間』かどうか確かめたいってこと!」
「はあ?」
マツリカが人間かどうか。
いやどう見ても人間だろ、と怪訝な顔をした栗丘は、
「あ、もしかしてあれか? 遅れてきた厨二病ってやつ?」
ぷっと笑いを堪えながらそう茶化すと、
「帰る」
「あー! うそうそ、冗談だって!」
即座に席を立って帰ろうとするマツリカを、栗丘は必死に引き留める。
彼女は再び腰を落ち着けると、わずかに視線を下げ、いつになく小さな声で言った。
「見た目で判断するなら、あたしは確かに人間なんだけど……。生まれ方がね、ちょっと特殊なの。あたしが生まれた時、あたしの両親は憑代だったから」
「憑代?」
「あたしを産む時、両親はあやかしに憑かれてたってこと。正常じゃない人間が、あたしを産んだの。それって、産んだのは人間だったのか、あやかしだったのか、どっちかわからないでしょ?」