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 昼休憩の時間になり、一旦警視庁舎へと戻ると、栗丘は他の二人から逃げるようにして食堂へと向かった。
 いつものカツカレーを頼んで席に着き、やっと解放された安堵感から盛大に溜息を吐く。

 気まずさで胃が痛い。
 それでも腹は空くようで、調理場から漂うスパイシーな香りを嗅ぎつけた胃が「ぐぅ」と弱々しく鳴く。

 料理の出来上がりを待つ間、私用のスマホでSNSを確認する。
 相変わらず、マツリカからの返事はない。

「……あいつはどこまで知ってんのかなぁ」

 無意識のうちに、そんな声が漏れる。

 御影はマツリカの後見人だと言っていた。
 養子縁組はしていないとのことだったが、おそらく同居ぐらいはしているだろう。
 ということは、彼女は御影にとって誰よりも距離が近い人物ということになる。

 彼女に聞けば、御影の考えていることや過去の事件について、何か詳しいことがわかるかもしれない。
 しかし、いかんせん彼女からのレスポンスが遅い……というか、無い。
 過去のトーク画面を開くと、そこには「おい」「返事しろよ」「寝てるのか?」と栗丘が一方的に送ったストーカーまがいの短文ばかりが並んでいる。
 完全に既読スルーだ。

 どうにかして彼女をこちらに振り向かせたい。
 もちろん変な意味じゃなく。

(あいつが興味を持ちそうな話題……か)

 思い当たるのは、やはり『門』についてだった。

 そもそも、彼女はなぜ門の向こう側へ行きたいなどと言っていたのか。
 その疑問も、良い機会なのでメッセージにして送ってみる。

 送信ボタンを押したところで、ちょうど料理が出来上がったようで番号を呼ばれた。
 今はとりあえず腹ごしらえだ、といそいそとカツカレーを迎えに行き、再びテーブルに戻って来たところでスマホが震えた。

 見ると、マツリカからの着信だった。

(早っ)

 予想以上の反応の早さに若干引きつつも、栗丘は恐る恐る応答ボタンを押す。

「もしもし?」

「なに。あんたも門の向こう側に興味あるの?」

 食いつきがすごい。

「あ、ああ。まあ、そんなところ」

 前回のようにまんまと彼女に嵌められて危険に晒されるのは御免だが、ある程度は話を合わせておかなければ欲しい情報は聞き出せない。

「門の向こうの世界について、俺もちょっと知りたくなってさ。できれば色々と話を聞きたいんだけど」

「ふーん……。まあ、あんたがどうしてもって言うなら、特別に教えてあげてもいいけど」

「本当か!?」

 助かる! と声を弾ませる栗丘の耳元で、マツリカはどこか上機嫌な声色で言う。

「ただし、交換条件ね」

 その言葉に、栗丘はぎくりとする。
 また何か良からぬことを企んでいるのかと警戒していると、

「晩ごはん、どこか美味しいところに連れてってよ。それで私を満足させられたら話してあげる❤︎」

 思いのほか可愛らしい条件に、栗丘は心の底からホッとした。