「もし、何か力になれることがあれば言ってください。僕でよければ、いつでも相談に乗りますから」

「あ、ああ。ありがとう……」

 善意の塊のような笑顔を向けられ、栗丘の良心はズタズタに引き裂かれそうになる。

(言えない……俺がお前の追っている犯人の息子だなんて……!)



          ◯



 その後のパトロール中も、栗丘はひたすら悶々としていた。

 パトカー内では絢永が運転、助手席に御影が座り、栗丘は後部座席から二人の後頭部を見つめている。
 御影は昨夜の話には一切触れず、ひたすらあやかしの気配を追うことに集中していた。
 あまりにもいつもの光景すぎて、昨日の会話は夢だったんじゃないかとさえ思えてくる。

(だめだだめだ、今は仕事に集中しないと)

 何も手につかないとはこのことである。
 せめて勤務中は雑念を振り払わないと、と躍起になっているところへ、

「そうだ、栗丘くん。今のうちに、これを渡しておくよ」

 と、御影が急に体を捻ってこちらを向いた。
 不意に視界に入ってきた狐面に、栗丘はびくりと肩を跳ねさせる。

 彼から差し出されたのは、見覚えのある二丁の拳銃だった。
 いつも絢永が使っているのと同じ、対あやかし専用の武器だ。
 一つはあやかしの動きを封じるための札が飛び出すもの。
 そしてもう一つは、トドメの一発を放つもの。

「君は囮役だから、発砲する機会は滅多にないだろうけどね。一応、護身用に持っておくといい。……年末は百鬼夜行に遭う可能性もあるし、その時は必要になるかもしれないからね」

 大晦日の夜には、実の父親と戦闘になるかもしれない。
 暗にそう告げられた気がして、栗丘はたまらず震えそうになる手で銃を受け取る。

 と、運転中の絢永がちらりとこちらに目配せして言った。

「いいんですか、御影さん。その銃は……」

 大丈夫大丈夫、という御影の反応に、栗丘は首を傾げた。

「何ですか?」

「いや、まあ。それほど大したことじゃないんだけどね」

 そう前置きしてから、御影は元の位置に座り直すと、フロントガラスを見つめたまま言った。

「この銃の弾や札は、特殊な方法で作られていてね。量産できないモノだから、できるだけ慎重に扱ってほしいんだ」

 いつだったか、絢永も似たようなことを言っていたな、と栗丘は思い出す。

「というわけで、無駄撃ちや試し撃ちは厳禁。実戦で標的を外した場合は、たっぷりお仕置きするから覚悟してね」

 大したことじゃない、という割には脅し文句のようなものを突き付けられて、思わず身震いする。
 御影のお仕置きというのがどれ程のものなのか見当もつかないまま、受け取った二つの銃を慎重に懐へ仕舞った。