「式神は便利だよ。こうして離れた場所の様子を探ることもできれば、会話もできるし、いざとなれば応戦もできる。栗丘くんも、気が向いたら練習してみるといいよ。実際に使役してみればあとは感覚で覚えられると思うから」

 まるでこちらの胸中を想像もしていないかのように淡々と語る御影の様子に、栗丘はかつてマツリカが言っていたことを思い出した。

 ——あんたさぁ、ミカゲに良いように使われてるよ。

 彼女は、御影はどんな汚い手でも使う人間だと言っていた。
 あの時はただの軽口だと思って聞き流していたが、今となっては、彼女の言葉が全て真実だったように思えてくる。

 こちらを監視するために、死んだあやかしを操って、あまつさえ愛着を持たせるような真似をするなんて。
 まるで人の心があるとは思えない。

(俺は……この人のことを信じていいのか?)

 もはやどこまでが嘘なのかもわからない。
 今こうして話している式神のことだって、そのまま鵜呑みにしていいのかどうかもわからない。

 こんな状態で、自分はこの先もこの男の下で働き続けなければならないのだろうか。

「あっ、そうだ。良い機会だから、ついでにあの話もしておこうかな」

 相変わらずの飄々とした声で、彼はそう思い出したように言った。

「……あの話?」

「君の父親の話さ。前から聞きたがっていただろう?」

 まさかのタイミングで切り出されて、栗丘は面食らった。

「い、今ですか? しかも『ついで』って……」

 御影のことを信用できなくなった今、このタイミングでそんな大事な話をされても正直困る。
 しかしそんな栗丘には構わず、御影の操るキュー太郎は辺りをぐるりと見渡して、

「見たところ、君の家には盗聴器やらそういった類もないようだし、丁度いい」

「いや、俺は丁度よくなんかないんですけど——」

 すかさず断ろうとした栗丘の声を遮るように、

「あまり時間も残っていないからね。今のうちに話しておこうと思う」

 そう言った御影の声は、先ほどよりもわずかに語気が強く感じられた。

「……時間がないって、どういうことですか?」

 すでに時刻は真夜中を過ぎている。
 明日も仕事だし、就寝時間のことを気にしているのかと栗丘は考えたが、

「今年の大晦日がリミットなんだ」

 と、御影は唐突にそんなことを言い出した。

「大晦日? って、あと一ヶ月ちょっとですけど……。それが何か?」

「大晦日は、絢永くんの誕生日。そして、絢永元首相があやかしに殺された日でもある」

 先ほど絢永の話していた内容を、御影はオブラートに包むこともなく口にする。
 そのあまりの配慮のなさに、栗丘は思わず顔を顰める。

「元首相が殺されたのは、今から十年前の大晦日の夜だった。そして、そこからさらに十年前……——今から二十年前の大晦日の夜には、何があったか覚えているかい?」

 聞かれて、栗丘は一瞬だけ言い淀んでから、

「……忘れるわけないでしょう」

 掠れそうになる声を振り絞り、答える。

「二十年前の大晦日は、俺の両親が殺された日です」