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「ごめんな、絢永。うちのばあちゃん、お前のこと全然覚えられなくて……。昔のことはよく覚えてるんだけどなぁ」
「いえ。お会いする度に僕のことを褒めてくれるので、嬉しいですよ」
祖母の見舞いと買い出しを済ませた二人は栗丘の自宅にたどり着くと、いつものようにリビングの方へと向かう。
もともと祖母と二人で暮らしていたその古い木造一軒家は、祖母が入院してからというもの、栗丘一人で過ごすには少々広すぎる場所だった。
買ってきた弁当をレンジで温めている間に、絢永はスーツの上着を脱いでネクタイを緩める。
まるで自分の家で寛ぐかのようにリラックスしているその様子を見て、栗丘はくすりと笑った。
「なんです? 何かおかしいですか」
「いや。なんか、この家にもずいぶん馴染んでくれたみたいだなーと思って」
それを耳にした途端、絢永はハッとした顔で慌ててネクタイを元通りに締め直す。
「す、すみません。馴れ馴れしかったですよね」
「えっ? いやいや。違う、そういう意味で言ったんじゃないって!」
続けてスーツの上着にも袖を通そうとする絢永を、栗丘は慌てて引き止める。
「そうじゃなくてさ。俺、嬉しいんだって。お前がそうやって俺の家で寛いでくれたらさ。なんていうか、安心してくれてるのかなーと思って嬉しいんだよ。だからそんな変に気を遣ったりするなよ。そうやって壁を作られる方が俺は寂しいからさ」
「そう、ですか?」
栗丘に促されるまま、不安げにソファに腰を下ろす絢永。
まるで世間知らずの子どもみたいな顔をする彼に、栗丘はまたしても笑みを溢してしまう。
出会った当初は取り付く島もないほどの無愛想だったのに、今ではこの変わりよう。
もしかすると、一度でも心を許した相手には絶大なる信頼を寄せるタイプなのかもしれない。
(こいつ、変な奴に引っ掛かったら一発で人生狂わされるんじゃないか……?)
内心そんな心配をしていると、
「何です? 何か失礼なことを考えていませんか?」
と、まるで胸中を見透かされたように問い詰められて、栗丘は慌てて首を横に振った。
「何でもないって。あっ、そろそろ弁当も温まったんじゃないか? ほら、早く食べようぜ!」
なんとかその場を誤魔化してレンジの方へと走る。
まあいいですけど、と苦笑する声が背後から聞こえて、ひとまずホッとする。
「そういやさあ、最近マツリカは元気にしてるのかな。御影さんから何か聞いてないか?」
食器棚からマグカップを二つ取り出しながら、栗丘は何気なく尋ねる。
先日の『手長』の一件以来、彼女とは連絡が取れていない。
こちらからSNSで何度かメッセージを送ってみたものの、毎回スルーされているのだ。
「元気にはしていると思いますよ。先日の一件については黙りのようですが」
どうやら絢永も詳しくは聞いていないらしい。
というより、マツリカ自身が何も語ろうとしないので情報がないようだ。