「あのあやかしは『子とり子とり』といって、子どもを標的にしますからね。憑代になったこの女性も、子どもに対して何かしら執着があったんでしょう」
「だからって俺に小学生のフリをさせるのはちょっと無理があったんじゃないか? いくら身長が低めだからってさ。俺、もう二十三だぞ?」
大きめのフード付きパーカーにハーフパンツを無理やり着せられた栗丘の姿は、絢永からすればどう見ても小学校の高学年くらいにしか思えなかった。
しかしそれを口にすると途端に機嫌を損ねることはわかっているため、あえて言及しない。
「で、今日はこの後どうするんだ? まだ晩飯も食べてないだろ?」
「もちろん、センパイの家に寄っていきますよ」
まるでそれが当たり前だとでもいうように、絢永は迷いなく言う。
栗丘が初めて彼を自宅に招き入れたあの日から、今日で二週間。
ここ最近はほぼ毎日のように、仕事終わりには二人そろって栗丘の家のリビングで夕食を済ませていたのだった。
(こいつ、最近ほんとによく笑うようになったよなぁ)
出会った当初はあれだけツンケンしていた生意気な後輩が、ここ数週間ですっかり角が取れて穏やかな表情を見せるようになった。
まるで人間を嫌っていた保護猫が少しずつ警戒を解いて人懐こくなってきたかのようで、意外と可愛いところもあるんだな、と栗丘もこそばゆい気持ちになる。
「あ。でもお前、いつも門限はどうしてるんだ? あんまり遅くなると怒られるだろ」
「そこは御影さんがいつも話をつけてくれているので大丈夫ですよ。なんなら朝帰りでも多分問題ないです」
絢永が現在身を置いている警察の寮には門限がある。
かつては栗丘も新米時代にそこで生活していたため、規則の厳しさには参っていた覚えがあるが、絢永に至ってはそれ程ではないらしい。
それは彼がキャリア組のエリートで特別扱いされているからなのか、あるいは御影の庇護で自由にさせてもらっているからなのか。
どちらにせよ、可愛げのある後半が伸び伸びと生活できているならそれでいいか、と栗丘は思った。
「そんじゃ、この人の意識が戻ったら、まずは食料の買い出しからだな。……とその前に、ばあちゃんの所にも寄ってっていいか?」
「もちろんです」
こうして二人肩を並べて病院を訪れるのも、最近の恒例になっている。
そして祖母は絢永の顔を見る度に、
「あら。今日は新しいお友達を連れてきたの? とってもハンサムねえ」
そう言って頬を赤らめるのも、もはやお馴染みの光景となっていた。