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昼休憩になり一旦解散すると、栗丘は庁舎内にある食堂へと向かった。
カツカレーを注文して席に着くと、私用のスマホに届いていたメッセージを確認する。
『今夜九時に駅前でね❤︎ 逃げたら死刑!』
マツリカからだった。
昨夜SNSを通じて彼女から提案されたのは、『栗丘とマツリカの二人だけであやかしを退治する』というものだった。
彼女曰く、御影に実力を認めてもらうにはあやかし退治の功績を見せつけるのが一番手っ取り早い方法だというのだ。
——でも、絢永は連れて行かなくていいのか? あいつがいないと、あやかしにトドメを刺せないんじゃないか?
——わざわざあいつを連れて行かなくったって、あいつの武器があればそれで十分。あたしも同じモノを持ってるし、使い方はわかってるから。
本当に大丈夫なのか? と不安になる栗丘に、彼女は奥の手と言わんばかりの殺し文句を送信した。
——あいつよりあんたの方が頼りになるってところ、見せてよ。ミカゲもあんたには期待してるし、あたしも信じてるから。
そこまで言うなら仕方がない、と昨夜の栗丘は鼻高々にOKを出した。
……が、今朝の講座であやかしの凶暴性を知った今となっては、いささか不安が募る。
しばらくスマホの画面とにらめっこしていると、やがてカツカレーが出来上がったようだった。
アツアツで湯気の立つそれを持って再び席に戻り、どこか上の空のまま食べ始めると、そこへ聞き覚えのある声が不意に届く。
「怖いんでしょう」
栗丘が顔を上げると、テーブルの向かいには絢永が立っていた。
彼はそのまま椅子を引いて、栗丘の斜め前の席に腰掛ける。
「絢永……? なんだよ、いきなり」
栗丘が口の中をいっぱいにしたまま聞くと、絢永は眼鏡の奥から鋭い視線を向けて言った。
「御影さんの説明を聞いて、怖くなったんでしょう。さっきは大丈夫だと言ってましたけど、強がりですよね」
まるで決めつけるように言われて、栗丘はムッとした。
「べ、別に怖くなんかないし。そりゃあ、さっきはその……御影さんがいきなりあんな写真を出すから、ちょっとびっくりはしたけどさ」
「さっきのあなた、声が震えてましたよ」
指摘されて、栗丘は今度こそ返す言葉がなかった。
「別に、今からでも降りていいんですよ。あなたが嫌だと言えば、御影さんはすぐにでもあなたを任務から外すでしょう」
「で、でも俺は! あやかしのこととか、知りたいことがいっぱいあるし……」
「あなたのご両親の事件のことだって、御影さん以外にも詳細を知っている人間がいるかもしれないじゃないですか。わざわざ危険だとわかっていることに首を突っ込まなくたって、情報を得る方法は他にもあるはずです」
絢永の声は冷たいが、言っている内容はまるで栗丘の身を案じているようでもある。