そこに映し出されていたのは、あきらかに人の死体だった。
自宅のリビングのような場所で、成人と思しき男性がうつ伏せに倒れている。
衣服はズタズタに引き裂かれ、その隙間から覗く皮膚は変色して老木のようになっている。
辺り一面にはあちこちに血の迸った痕があり、男性が何かから逃げ惑いながら絶命した様がありありと想像できた。
「一見、熊か何かに襲われたように見えるんだけどね。実際はこの男性の奥さんに取り憑いていたあやかしの仕業だよ。男性は常日頃から不倫を繰り返していたようでね。奥さんもそれに気づいていたみたいだから、きっとその恨みの心に付け入られたんだと思う。まあ、夫婦間の恨み言なんてそれだけじゃなかったかもしれないけどね」
「そんな……。あやかしに憑かれた人は、こんな残酷なことまでするんですか……?」
わなわなと唇を震わせながら栗丘が言うと、御影は相変わらずの調子で淡々と答える。
「死体が残るならまだマシな方だよ。あやかしの中には、人間を丸呑みにしちゃうような奴もいてね。そういう場合、被害者は失踪扱いのまま事件は迷宮入りしちゃうから困るんだよ。……まあどちらにせよ、あやかしの存在を証明できない以上、人が死んでからでは事件の解決には辿り着けない。だからこそ、我々は死人が出る前に動く必要がある。そのためには囮捜査で誘き寄せるのが最も効果的というわけさ」
栗丘は自らが囮になることの危険性について改めて自覚した。
最悪の場合、この男性のように全身をズタズタに引き裂かれて惨殺される可能性もある。
「怖気づいたかい?」
御影が聞いて、隣からは絢永が静かに視線を寄越す。
「いえ……。大丈夫です」
正直なところ、全く怖くないと言えば嘘になる。
けれど、どんな危険を冒してでも、栗丘はあの事件のことが知りたかった。
(父さんも、母さんも……あやかしに殺されたかもしれないんだ)
二十年前に両親が巻き込まれたあの事件。
御影が知っているというその真相。
育ての親である祖母でさえ、その真実を語ることは一度もなかった。
(それに、父さんは……)
二十年前。
爆発の起きた現場から見つかった複数の遺体。
変わり果てた母の姿は、まだ幼かった栗丘の目に直に触れさせられることはなかった。
そして、同じく爆発に巻き込まれて死んだといわれている父の遺体は、二十年経った今でもまだ見つかっていない。