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翌日。
十一月のスタートとともに新しい部署へと異動した栗丘は、まず手始めに、御影によるあやかし講座を受けることになった。
「名付けて、『おしえて御影先生! 馬鹿でもわかるカンタンあやかし講座』。始まり始まりー」
警視庁舎の会議室でホワイトボード前に立つ御影は、パチパチパチと自ら拍手して講座の開始を宣言する。
そんな彼の前で大人しく席に着いているスーツ姿の栗丘は、若干戸惑いながらも控えめな拍手を送る。
さらにその隣に座る絢永は「なんで僕まで付き合わなきゃいけないんだ……」などとブツブツ言っている。
「というわけで。あやかしの性質については昨日の店で話した通りだけど。今日はあやかしの『種類』について説明するね」
「あやかしの、種類?」
栗丘がおうむ返しに聞くと、御影はうんうんと満足そうに頷く。
「あやかしも人間の犯罪者や害獣と同じで、その害悪さにレベルがあってね。そのレベルによって、あやかしは二つの種類に分けられると我々は考えている。言ってしまえば、放っておいてもいいレベルか、そうでないレベルかってこと」
「えっ。人間の犯罪者でも、放っておいていいレベルってあるんですか?」
さっそく話の腰を折る栗丘に、絢永は鬱陶しそうに眼鏡の奥から苛立ちの視線を送る。
「まあ、厳密にはどんな軽犯罪も無視していいわけじゃないんだけどね。たとえばほら、幼い子どもが『バカ』とか『アホ』とか言ってても、侮辱罪だなんて目くじらを立てる大人はそうそういないだろう? そういうレベルだと思ってくれればいいよ」
説明を聞きながら、そういえばこの講座自体にも『馬鹿』という悪口が入っていたな、と栗丘は他人事のように考える。
「あやかしは自分たちの姿が見えないのをいいことに、こっそりと人間に噛みついてその血を啜る。……正直、たまに見かける小動物程度の大きさのあやかしなら、別に放っておいてもいいと私は考えている。特に有害な菌や毒を持っているわけじゃないし、傷口も大して気にならない程度だし、実際に栗丘くんだって、あの白いふわふわのことは可愛がっているわけだしね」
そんな御影の言葉に応えるようにして、栗丘の胸ポケットに入っていたキュー太郎は「キュッ!」と一声鳴いて顔を出す。
「ひ弱なあやかしは、我々のような霊視能力のある人間が触れればたちまち消えてしまうくらいの儚い存在だからね。わざわざ囮捜査までして誘き寄せる必要はないと思う。だから我々が相手にするのは、もっと高等で強力で、甚大な被害が予想されるあやかしなんだよ」
言いながら、御影は手元に用意していたパワーポイントを起動させ、部屋の照明を消す。
と、直後にホワイトボードに映し出された画像を見て栗丘は絶句した。