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「えーと、それってつまり……囮捜査ってことですよね?」
御影の説明を聞き終えた栗丘が恐る恐る尋ねると、
「そういうこと!」
と、御影は親指をぐっと立てて同意する。
「栗丘くんの『引き寄せ体質』は、対あやかしの囮捜査には打って付けだからね。使わない手はないよ」
「で、でも囮捜査って確か、よっぽどのことじゃない限り許可が下りないって聞いてますけど……」
「その辺は気にしなくても大丈夫だよ。警察内の大半の人間は、我々がどんな捜査を行なっているか全く理解していないからね」
「も、もしかして許可もなしにやるんですか!?」
御影はふふふ、と笑うだけで肯定も否定もしない。
青ざめる栗丘に、マツリカは締めのデザートのアイスをつつきながら言う。
「人間のしきたりや法律なんてミカゲには関係ないよ。こいつは目的のためなら手段を選ばないんだから」
「やだなあマツリカ。それじゃあまるで私が無法者みたいじゃないか。違うんだよ栗丘くん。心配しなくても、ちゃんと許可は取っているよ。上層部にも話のわかる人間はいるからね」
ま、裏技だけど、と付け足した御影に栗丘は一抹の不安を覚える。
しかし腐っても彼は警視長であり、あのプライドの高い絢永でさえも認める実力の持ち主だ。
立場的に考えても、そう簡単に下手を打つような人間だとは思えない。
「……わかりました。俺でよければ、その囮捜査の囮として、人の心に巣食うあやかしを炙り出します。でも……」
「何だい?」
「どうして、俺が『引き寄せ体質』だってわかったんですか?」
栗丘は今まで、自分があやかしを引き寄せているなんて自覚したことはなかった。
周りにあやかしが見える人間がいなかったので、比較する対象すらいなかったというのもあるが、そもそも、あやかしに遭遇すること自体が数ヶ月に一度程度しかなかったのである。
「それはほら、君の胸ポケットに入っている子が証明してくれたんだよ」
御影が言って、栗丘はすっかり忘れていたその存在をハッと思い出す。
「そ、そうだ。こいつ! また忘れてた……。御影さんにこいつのことも相談しようと思ってたんです!」
言いながら、栗丘はわたわたと胸ポケットを探ってその獣を引っ張り出す。
「キュキュ——ッ!!」
急に体を掴まれてびっくりしたのか、それは甲高い鳴き声を上げると、栗丘の指にガブリと噛みついた。
「痛っっっって!!」
栗丘が痛みに震える手でそれを皆の眼前に差し出すと、胴体を掴まれたままのその白いふわふわの獣は、栗丘の指から滴る血を美味しそうに舐めていた。
「そうそう、この子。『管狐』っていうんだけどね。もともとは私が可愛がっていたんだよ。でも全然懐いてくれなくてねぇ」
「えっ、御影さんのペットだったんですか!?」