尚も悩み続ける栗丘に、はぁ……と絢永は溜息を吐く。

「人間は、誰だって闇を抱えています。相手がどれだけ愛想良く笑っていたとしても、その心の奥底では何を考えているかはわからないし、覗き込む術もないでしょう。なにも斉藤さんに限った話じゃありません。みんなそれぞれ何かを抱えて、迷ったり悩んだり、あるいは目を逸らしたりして生きているんです。今回はそれがたまたま可視化されただけです。斉藤さん本人が普段はそれを隠しているのなら、我々は見なかったことにすればいいじゃないですか。今回問題となったあやかしは、ちゃんと退治したんですから」

「絢永……」

 再び絢永が視線を戻すと、こちらを見上げる栗丘の目がやけに明るく輝いている。

「絢永、お前もしかして……俺のことを慰めてくれてるのか?」

「…………は?」

 キラキラと期待の眼差しを向けてくる栗丘に、絢永はこれ以上になく顔を歪ませる。

「俺のこと、そんなに心配してくれるなんて……。絢永、お前ってやっぱり本当はイイ奴なんだな。ただの嫌味で生意気な奴だと思ってたけど、見直したよ」

 ありがとな、と見当違いの笑顔を向けられて、絢永は無言のまま手元の刺身に箸を伸ばす。

「……やっぱり僕、あなたのこと嫌いです」

「えっ、なんでだよ!?」

 栗丘が元のトーンで声を張り上げた瞬間、その様子を見ていた御影がふふっと笑った。

「二人とも、どんどん仲が良くなってるみたいだね。その調子で今後の捜査もよろしく頼むよ」

 言いながら、彼は狐の面を少しだけ持ち上げて、その隙間から器用に刺身を口元へ運んでいく。
 栗丘の位置からは面の下がどうなっているのかよく見えず、つい好奇心で首を伸ばして横から覗き込もうとすると、べしっと絢永の平手が頭に飛んできた。

「いてっ」

「興味本位で人のプライバシーを侵害するんじゃありません」

「あーっ! こいつ今叩いた! 傷害罪だ!」

 再び部屋の中が騒がしくなると、マツリカは心底面倒くさそうな顔で呟く。

「これのどこが仲が良いの? うるさすぎるし、お店の営業妨害だからさっさと連行して欲しいんですけど」

「喧嘩するほど仲が良いんだよ。彼らにはこれから二人一組で捜査に当たってもらうわけだし、どんどん距離を縮めてほしいね。……というわけで、そろそろあやかし退治の方法について説明したいんだけど、いいかな?」

 御影が言って、栗丘と絢永はやっと口論をやめる。
 そうして渋々と座り直した彼らを前に、御影は本日のメインディッシュともいえる話題に改めて切り込んだ。