「本当に何を考えているんだ、あの人は……」

 信じられない、という目で店先を見つめる絢永の後ろから、

「まあまあ。いいじゃないか」

 と、どこからともなく現れた狐面が肩を叩く。

「おわッ! 御影さん!? いつのまに僕の背後に……!」

「ふっふっふ。まだまだ鍛錬が足りないようだねえ、絢永くん」

 そう得意げに笑った御影の白い面は、日没後の暗い路地で見かけるととんでもなく不気味だった。
 彼は足音も立てずに絢永の隣へ移動し、同じように店の方を眺める。

「てっきり二人ともケンカ別れして帰ったのかと思ったけど、仕事熱心でびっくりしたよ。意外と仲良くやっているようだねえ」

「違います! 僕が仕事熱心なのはその通りですが、あいつはただ遊び半分でついて来ただけです。はっきり言って邪魔です。本来ならまだ斉藤さんを刺激する予定ではなかったのに、あいつが勝手に……」

「まあいいじゃないか。ちょうど私もこの目で見てみたかったんだよ。栗丘くんの特殊な体質をね」

「体質?」

 御影の口にしたそのワードに、絢永は首を傾げる。

「私が栗丘くんを候補生として選んだのには、ちゃんと理由があるんだよ」

「そんなの、彼にはあやかしが見えるから、という単純な理由でしょう。あやかしを認知できる人間はもともと少ないですし、それが警察の中にいるのなら都合が良い、ということなのでは?」

「もちろんそれもある。だけど、それだけじゃない。彼はね、『引き寄せ体質』なんだよ」

「引き寄せ体質? 何ですかそれは」

 こそこそと話す彼らの視線の先では、栗丘と斉藤が楽しげに会話している。
 見た目だけでなく中身も子どもっぽい栗丘に、斉藤はどこか安心感を持っているのかもしれない。

「栗丘くんにはね、あやかしを引き寄せる体質があるんだよ。あの斉藤という人物も、あの交番にやってきたのはただの偶然じゃない。本人が意識していたかどうかは別として、栗丘くんに引き寄せられてやって来たんだ」

 あきらかに確信を持った口ぶりで言う御影に、絢永は困惑の色を浮かべた。

「あやかしを、引き寄せる……? そんな体質の人間が本当にいるんですか?」

「私も最初は半信半疑だったんだけどね。栗丘くんのことをしばらく観察させてもらってわかったよ。彼はまごうことなき引き寄せ体質だ。……君は、栗丘くんの胸ポケットに入っているあやかしの存在に気づいていたかい?」

 思いもよらぬ質問を投げかけられて、絢永は動揺した。

「胸ポケット? ……いえ」