「隠れて!」
咄嗟に絢永が手を伸ばし、栗丘の体を木陰へと強引に引き入れる。
小柄な体はいとも簡単に絢永の胸へすっぽりと収まり、そのまま口元まで塞がれた栗丘は呼吸をすることさえままならなかった。
「……気のせいか」
やがてぽつりとそう呟いた斉藤は、とぼとぼと店の奥へ戻っていく。
その姿を見届けて、絢永はやっとのことで栗丘を解放した。
「危なかった……。危うく見つかるところでしたよ」
「ぶっは! ……てめっ、鼻まで押さえんな! 窒息するだろ!」
はあはあと肩で息をしながら栗丘は訴えるが、当の本人はつーんとしたまま店の方を無言で見張っていた。
と、そこで栗丘ははたと気づく。
「そういやお前、なんで今回の件にそこまで乗り気なんだ?」
「はあ? そんなの、早く事件を解決したいからに決まっているでしょう」
「でもさ、今回の件を無事に解決できたら、俺はその……特例対策……ナントカって部署に入ることになるんだろ? お前は嫌じゃないのか?」
「嫌に決まってるでしょ。元よりあなたと二人で事件を解決する気はありません。僕が一人で片付けて、あなたにはとっとと戦力外通告で消えてもらいます」
「またまたぁ。本当はそのナントカって部署に俺にも入ってほしいんだろ? それでお前もそんなに張り切ってるんだろ」
ほれほれ、と嬉しそうに肘を押し付けてくる栗丘に、絢永は死んだ魚のような目を向ける。
「……どこまでおめでたい頭をしてるんですか、あなたは」
「照れんなって。お前がその気なら、俺もそろそろ本気を見せなきゃな。てことで、ここは俺に任せとけ!」
言うなり、栗丘は威勢よく木陰を飛び出すと、そのまま店の方へすたすたと歩いていく。
「ちょっ、ちょっと! 一体どうするつもりですか!?」
「どうするって、直接本人と話すんだよ。その方が手っ取り早いだろ? そんな所で隠れて見てたって、あと何日かかるかわからないじゃないか」
「勝手なことしないでくださいよ! ……あーもうっ!」
絢永の制止も聞かず、栗丘はどんどん店に近づいていく。
やがて再び店先に現れた斉藤が栗丘に気づくまで、それほど時間はかからなかった。