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 栗丘がしぶとくついて行くと、やがて絢永は細い通りの角で止まった。
 眼鏡の奥に光る視線の先を追うと、そこには一軒の店が見える。
 古びた看板にはでかでかと『斉藤商店』の文字があった。

「そうか。斉藤さんの店か!」

 なるほど! と栗丘は大声を上げて納得した。

「しっ。大きな声を出さないでください!」

 心底腹立たしげに、絢永は小声で注意する。
 そのまま彼は街路樹の陰に隠れるようにして、息を殺して店の方を眺めていた。

「……もしかして、今からここで張り込むつもりか? 勤務時間外なのによくやるなぁ」

 感心半分、呆れ半分といった顔で栗丘が唸ると、

「あなたね……。いま自分の置かれている状況をちゃんと理解してます?」

 絢永はちらりと疑わしげな一瞥をくれてから、再び店の方へと目を戻す。

「わかってるよ。斉藤さんの問題を解決しないと、あの御影って人から情報はもらえないって話だろ?」

 それがどうかしたのか? と栗丘が迷いなく聞くと、「簡単に言ってくれる……」と絢永は今度こそ目頭を押さえて栗丘を睨んだ。

「あのね。御影さんは警視長の人間なんですよ。警視長! 普通はこんな機会を与えてもらえること自体滅多にない……というか、まず有り得ないんですよ。めちゃくちゃ貴重なんですよ。なのに、もしあなたが今回の件でしくじったら、せっかく御影さんが用意してくれたこのチャンスを棒に振るんですよ。その重大さって理解できてます?」

「なんだよお前。やけに御影さんのことが好きじゃないか」

 まるで見当違いの反応を見せる栗丘に、はあぁ……とまたもや深い溜息を吐く絢永。

「……彼は、僕にとっての恩人です。でも、それを抜きにしたって、彼の仕事ぶりを見ていればまず頭が上がりません」

「仕事ぶり? あの飄々とした感じでそんなこと言われても、あんまりピンと来ねーなぁ……」

「まあ、ノンキャリアで出世欲もない能天気なあなたには、一生わからないでしょうね」

「な、なんだとぉ!? もっぺん言ってみろ!」

「あなたのようなノンキャリアで出世欲もない能天気な人には一生わからないでしょうね」

「……ほ、本当にもう一回言うやつがあるかぁ!!」

 栗丘が半ば叫ぶように言うと、ちょうど店先に出てきた件の男——斉藤が、こちらの声に気づいたのか不思議そうに辺りを見渡した。