一体何を言い出すのかと栗丘が目を剥いている隣で、絢永は疲れたように再び溜息を吐く。
「僕は反対ですよ。いくらあやかしが見えるといっても、使い物にならなければ意味がありません。御影さんのお墨付きだというから期待していましたが、こんな見た目も中身も幼稚な人間に任務が務まるとは到底思えません。捜査なら僕一人でも十分でしょう。一体どうしてこんな落ちこぼれを引き入れようとするんですか」
よくもまあここまでスラスラと嫌味を羅列できるもんだ、と栗丘が怒りを通り越して半ば感心していると、御影は狐面の奥でくすりと笑って栗丘に視線を向ける。
「君は、刑事になりたいんだろう?」
刑事、というワードに思わず背筋が伸びる。
「そ、そりゃあ、刑事に憧れる人間は多いでしょう。俺……私だって例外じゃないです。それに、出世のチャンスがあるなら誰だって飛びつきたくなるはずです」
「いいや。君が刑事を目指す理由はそれだけじゃない」
まるで栗丘の胸中を見透かしたかのように、確信を持った口調で御影は言う。
「君は、二十年前の事件の真相が知りたいんだろう。あの事件で、君の父親が一体何に巻き込まれたのか」
その指摘に、栗丘は全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
言葉を失う栗丘の隣で、絢永は訝しむように眉をひそめる。
「二十年前? 何ですか、それ。僕は聞いてませんよ」
「機密事項だからね。栗丘くんが知りたがっているその事件の真相も、あやかしに関係があるかもしれないんだよ」
「……何か、知っているんですか?」
自分でも驚くくらいに低い声で、栗丘が聞いた。
二十年前の事件。
栗丘の両親が遂げた不可解な死。
その真相を、いま目の前にいる男が知っているかもしれない。
「……もしも君が、今回の案件——あの斉藤という男性が抱えている問題を無事に解決できれば、私の知っている限りを君に話そう。ただし——」
狐面の奥で、微かに含み笑いをする気配が漂う。
「あの事件のことは機密事項で、たとえ警察の内部でも限られた範囲でしか情報を共有することはできない。したがって、君がその情報を得た暁には、君の意思には関係なく、我々に協力してもらうことになる」