「あやかしが、人間を喰らうだって? ……そんなことがあっていいのか……?」
「急に言われても、にわかには信じがたいかもしれないね。でも、実際にそういう事件はあちこちで起こっていて、そこに目を光らせている人間が警察の中にはいるんだよ。我々のようにね」
言いながら、御影は栗丘の背後へと視線を向ける。
栗丘もそれに釣られて後ろを見ると、夕闇に染まる道の先から、一人の男性がこちらへ歩み寄ってくるのがわかった。
まだ若い、栗丘とちょうど同じくらいの年代の青年だった。
黒のスーツに身を包み、姿勢良く歩く姿はゆうに百八十センチを超える長身である。
その顔は、一見して外国の血が入っていることがわかるハーフ系だった。
肌は白く、眼鏡の奥に見える瞳も碧い。
髪の色はほとんど銀に近く、まるで西洋人形を思わせる美しい容貌だった。
「紹介するよ。絢永呂佳くんだ。先月警察大学校を卒業したばかりの新人で、今は私の部下だよ」
御影が言って、当の本人は栗丘の前で立ち止まった。
目の前まで迫った長身の男は無言で栗丘を見下ろしている。
身長差のせいもあり、なんだか威圧感が半端ない。
「……えーっと」
栗丘はまず何と挨拶すべきか迷った。
相手は今年の春から警察官になったばかりの新人だ。
ならば栗丘にとっては後輩に当たる。
だが先ほど御影の紹介にもあった『警察大学校』というのは、いわば選ばれしエリートだけが通うことの出来る場所だ。
そこを卒業した警察官は『キャリア組』と呼ばれ、栗丘たちのような『ノンキャリア組』とは違い、階級が警部補からのスタートとなる。
栗丘は最下層の巡査に位置するため、この時点で相手の方が二階級も格上なのである。
(とはいっても、俺の方が五年も先輩なわけだし……)
伊達に五年も警察官はやっていない。
栗丘はにこやかに右手を差し出して、
「俺は栗丘みつき。よろしく!」
と、軽い感じで挨拶してみたが、相手の男——絢永呂佳は返事もせずに御影の方を見て、
「……コレが、御影さんの言っていた『候補生』ですか? ずいぶんと子どもっぽいんですね」
至極落ち着いた声でそう言った。
「は……はぁ————っ!?」
これには栗丘も思わずブチ切れる。
「何だと、このクソ眼鏡! 誰が子どもっぽいだって!?」
「クソ眼鏡って……。品のない言葉遣いですね。見た目だけじゃなく中身まで子どもだとは」
はあ……とわざとらしく溜息を吐く絢永に、今度こそ殴りかかろうとする栗丘の首根っこを御影が掴む。
「はいはい、喧嘩しないの。これから君たちは大切な相棒同士になるかもしれないんだからね」
「あ、相棒っ!?」