「勝くんとか朱莉とか玲子も、もちろん好きよ。でも、陽介君と一緒にいると、私、落ち着きがなくなるの。すごく楽しいのに、なんだか胸がざわざわして……うまく息ができなくなる時がある。私、やっぱりどっか壊れてるのかな」

 ぼんやりと空を見つめる藍を、木暮は複雑な表情で見つめた。


「ねえお兄ちゃん、覚えてる?」

「何を?」

「2年になって、私が保健委員になった時」

 藍は、ベッドに腰掛けている木暮にもたれる。

「私、保健室にあったはさみで自分の指切ろうとしたじゃない?」

「ああ」

 それは木暮が、保健委員に備品の説明をしていたときのことだ。


 ガーゼなどを切るために用意されたはさみは、生徒たちが使う文具より良い品でよく切れるが、紙を切ってはいけないと説明した。よくそれでプリントなどを切ってしまう生徒がいるが、切れが悪くなってしまうので文具用と分けなければならない。その説明を聞いた保健委員の男子が、『なら指なら切ってもいいんですかあ?』とふざけて言ったのを聞いた藍は、自分の指を切ろうとしたのだ。

 ふざけていた男子はあわててそのはさみをとりあげた。