「何があったんだ?」

「わ、わかんない……勝君が急に怒りだして……、ど、怒鳴るから……怖くて……」

 すべてを言えずに、藍は座り込んだまま陽介にしがみついて泣き始めた。陽介はその背をあやすようにぽんぽんと叩き続ける。

 しばらく待っていると、ようやく藍は泣き止んだ。


「落ち着いたか?」

 しばらく迷っていた藍が、こくりと頷く。

「うん。ありがと」

 ごしごしと涙を拭く藍を、陽介は、じ、と見つめる。

「ごめん。ちょっと聞こえちゃったんだけどさ。さっきの……」

「何をしている」

 ふいに低い声が聞こえて、陽介は顔をあげた。校舎から出てきたのは、木暮だ。


「とっくに下校時間は」

 言いながら振り向いた藍に視線を向けた木暮は、その目が真っ赤になっているのに気づいてまなじりを吊り上げる。

「彼女に何をした」

 足早に近づいて来る木暮がどう誤解したか陽介にはわからなかったが、とてもまずい状況になっていることだけは瞬時に理解した。あわてて立ち上がる。