クマちゃんは現在一人でお留守番をしている。

『俺達はしばらくギルドの会議で戻れないから、ドアをカリカリしないように』

 最近小言が多いリオの言い付けを守り、ドアには近付いていない。
 再びルークに置いていかれてしまったのは悲しいが、クマちゃんにもやらなければいけない事があるのだ。
 
 リュックの中から見つけた小さな本を開く。

《はじめての工作》 

―初級編―

・元になる素材と魔石を用意し、作りたいものを想像する。
・杖で魔力をそそげばできあがり。

 なんだか簡単そうに見える。
 うむ、と頷く。

 この本によると、作りたい物に合わせて素材を探さなければいけないらしい。
 魔石の入手はどうすればいいのだろうか。
 とりあえず部屋の中を探索してみよう。



「ただいま~。って部屋暗!! この部屋めっちゃ暗いんだけど!!」

 リオはドアを開けてすぐに部屋の異常に気が付いた。
 いつもは自動でつくはずのランプが消えている。
 そして暗闇の中で白っぽい何かが動いている。

 同時に部屋に戻ってきたルークは夜目が利くのか、しなやかな動きで暗闇の中にいるクマちゃんを掬い、腕に抱えた。
 もふもふの顎の下を撫で、長い指を器用に動かし曲がっている赤いリボンを直す。

 そして、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。 

 
「ぜってー飯食いに行っただけでしょあれ」

 今朝方期待を踏みにじられ心が擦り切れているリオは、暗い闇に包まれた部屋の中で、孤独に呟く。
 そろそろ夕食の時間だ。
 あのルークが部屋の明暗ごときを気にするはずがない。



 リオの中で容疑者は一人しかいない。
 だが証拠がないため捕まえることが出来ない。
 あの小さなもふもふがひとりで、届かないはずの壁の魔石をすべて外せるとも思えなかった。

 捜査を打ち切り、ギルド職員に冷たい目で見られながら、始末書を書く。

 嘘はよくない。
 理由もなく〝全部なくしました〟と書くわけにもいかない。

 真実は後でマスターに報告しよう。
 今はとにかく魔石が欲しい。


 リオの願いも虚しく、外壁に並ぶその窓は、ひとつだけ、ずっと暗いままだった。