現在クマちゃんは『部屋汚い事件』の早急な解決を願い、力を蓄えている。



「今一瞬自分の目を疑ったんだけど。リーダーの神経どうなってんの」

 リオは一階に降りてすぐに見つけたルークを二度見した。
 どうみても、普通に飯を食っている。

 膝の上には容疑者クマちゃん。

 なんてことだ。
 ルークはあのやべー木の対策を練るために部屋を出たわけではなく、朝だから飯を食いに来ただけなのだ。

「起きたか」

 汚れないようにクマちゃんの首元のリボンを押さえているルークが、朝からうるさいリオに視線を流す。

「いやいやいや、起きたかっておかしいでしょ。あの木の横で寝てる俺を起こさない選択肢なんなの」

 きっとリオが起きなければ、あのやべー木と一緒に寝かせておくつもりだったに違いない。

「騒ぐことでもねえだろ」

 低く色気のある声が癪に障る事を言う。
 では何が起これば騒いでいいのか。
 おそらくルークは世界中の人間が騒ぐ程の事が起こっても騒がない。
 ルークの基準だとリオは一生騒げない。

 あのやべー木がもっとやべー事になっても気にしないような人間と話しても無駄である。

「……俺も飯とってくる」



「リーダー、マジでこれどーすんの」

 部屋に戻ると、当然床には木が倒れていた。
 チャラいのは外見だけの常識人リオは、やはり飯を食っている場合では無かったと自戒する。

「そのままで良いんじゃねぇか」

 ルークの目にはこの惨状がどう映っているのか。
 部屋のど真ん中に倒れている木が少しも気にならないのだろうか。

「そのままってまさかとは思うけどこの床にこのまま木を倒しておくって意味じゃないよね」

 息継ぎのない早口のかすれ声が鼓膜を揺らす。 

「そんなに気になんならどけりゃいいだろうが」 

 倒れている木よりも、倒れている木が気にならないその神経が気になる。
 だが、木が爆発しようが建物が崩壊しようが気にならないような人間と心が通じ合う日は来ない。

 心は通じ合わなかったが〝リオは木をどうにかしたい〟という意向を伝えることに成功した。
 しかし、無神経で大雑把なルークの〝気になんなら退けろ〟を覆すことは出来なかった。


 そうして、お互いの主張のあいだを取った結果、木は倒したまま壁際へ寄せられた。