朝、目が覚めたクマちゃんは、ルークの腕から抜け出し部屋の中を見た。
 床が大変なことになっている。
 なんとなく、このままにしておいてはいけない気がする。

 少しくらい部屋が汚くても気にしないタイプのクマちゃんが、ちょっと気になるくらいには大変なことになっていた。
 ひとりではどうにか出来そうにない。
 助けが必要だ。

 
 クマちゃんに顔をふんふんされ、ルークは目を覚ました。

「くすぐってぇ」

 やたらと色気のある低い声が部屋に響く。
 寝起きでも全く眠そうには聞こえない。

 クマちゃんがルークの意識を床に向けようと、もふもふの手で彼の長い指を引っ張っている。
 視線をそちらに流したルークは、無言でクマちゃんを抱え、洗面所へ向かう。

 そして、椅子に掛けてあった黒い上着を取りそれを羽織ると、しなやかな動作で部屋を出ていった。


 ドアが閉まる音がする。

「いまなんじ……」 

 寝起きでさらにかすれた声でリオが呟く。

 室内に自分以外の気配がない。
 ――もう朝食の時間だろうか。

 普段は二度寝したくなるが、今日は意識がはっきりするのが早い。
 何故か妙に体の調子がいい。
 室内なのに澄んだ空気は、森の中のように爽やかだ。

 いつもより軽く感じる体を起こすと――爽やかではない。

 部屋が大変なことになっている。
 
「え、なにこれ」

 床に木が倒れている。

 よく見るとその周りに、割れた植木鉢、こぼれた土、そして転がったリュック、はみ出した杖。
 間違いない。
 犯人はクマちゃん。

「えー……めっちゃ木倒れてんじゃん」

 室内に木。
 しかも倒れている。
 意味がわからない。

 原因はあの謎の植木鉢だろう。
 だが昨日クマちゃんにあげた水は、この部屋の水差しに入っていたものだ。
 特別ではない、この宿で普段から飲料水に使われているただの水。
 自分があげたのだから、間違いない。

 考えてもわかるわけがない。
 クマちゃんに聞くしかないだろう。
 答えを知っているかは分からないが。

 一人でこれを片付けるのは絶対に嫌なリオは、素早く身支度を整え、一人と一匹を探しに部屋を出た。