クマちゃんが願った通り、二人と一匹はあの小さな家の中にいた。

 クマちゃんを腕に抱えたまま移動させられたルークはとっさに床に片膝を突き、腕の中のそれを守るように力を込めた。
 一人と一匹のそばで杖を見ていたリオは、たまたま屈んでいたおかげで低すぎる天井の餌食にならずにすんだ。

「ここ何処? ていうかめちゃくちゃ狭いんだけど」

 リオは急にどこかへ飛ばされた驚きが、部屋が狭すぎるせいでかき消されたようだ。

「お前の家か」

 ルークは室内の様子と部屋の狭さから状況を把握している。
 謎の杖の効果に驚かない訳では無い。
 だが今まで彼が手に入れたアイテムの中には、離れた場所への移動が可能な物もいくつか存在する。
 動くぬいぐるみよりは、めずらしくはない。

 クマのぬいぐるみに持ち家があることを気にしないルークは、冒険者らしく大雑把だった。


 ルークの膝から降りたクマちゃんは、鉢植えに入った謎の植物の存在を思い出す。
 何故か、それが役に立つような気がした。
 自分の手では一つしか持てないが仕方がない。
 三つ並んだ鉢植えの真ん中の鉢を両手で持ったまま、室内を見回す。

 ベッドの上に袋が置かれている。
 あれに入れて運ぶのがいいだろう。


 もふもふが動いている様子を眺めていたルークが、筋肉質だが長くすらりとした腕をベッドの方へ伸ばしクマちゃんが見ている袋を取ってやる。
 袋の両側についている紐は腕を通せそうだ。

 ルークが鉢を袋にいれ、クマちゃんに背負わせる。
 ただの袋に見えたそれは、白いふわふわな体にぴったりのクマちゃん型リュックサックだった。
 大きさはぴったりだが、クマちゃんは体の後ろに鉢があるせいで立ち上がれない。

「リュックサックまでクマの形なんだ? つーか一旦帰んない? 狭すぎてやばい」

 リオは冒険者らしく、何かが起こっても戦闘態勢に入れない場所では落ち着かないようだ。
 ルークはあまり気にしていない。
 戦闘スタイルが違うのだろう。

 家が狭いという失礼な理由でクマちゃんのお家は不評のようだが、探索は何も進んでいない。
 宿に帰ろうと言われれば帰るしかない飼い猫のようなクマちゃんが、お宝を発見するのは難しそうだ。
 先程と同じように、小さな黒い鼻にキュッと力を入れ、杖を振る。

 動いているうちに興味がほかに移ってしまう猫のようなクマちゃんは、すごい棒のことはもう覚えていなかった。