まるで、少しだけ光が射す森の中の洞窟のような室内。

 温かい場所で目を覚ます。
 何か夢を見ていた気がするが、忘れてしまったようだ。
 目の前に、はだけたシャツがある。
 クマちゃんは視線を動かし上を見た。
 目を覚ましたルークが柔らかく、頭を撫でてくれた。



 クマちゃんが酒場で彼に朝食を食べさせてもらっていると、少し遅れて仲間たちがやってきた。

「リーダー。今日も森?」

 怠そうに金髪をかきあげ、リオが言う。
 彼は毎日戦闘以外に起こるもこもこ問題のせいで、精神的に疲れていた。
 だが何故か、肉体的には調子がいい。

「ああ。減ってねぇからな」

 低く魅惑的な声だが内容は不穏だ。
 ルークは普段と変わらぬ無表情で長い足を組み、膝の上のもこもこを撫でている。
 今しがた自身が放った言葉に何も感じていないらしい。

「君たちと森へ出掛けるのは久しぶりだね。とても嬉しいよ」

 派手な鳥男が澄んだ声で囀っている。
 ウィルにとっては危険があることよりも仲間とお出掛けすることのほうが重要らしい。


 三人が仕事の話をしているあいだ酒場内を見回り、安全を確かめるのもクマちゃんの大事な仕事である。
 よくわからないが、大型モンスターの影響で人手が不足し、色々大変らしい。

 クマちゃんはお留守番よりもルークと一緒に居たい。
 だが今日もマスターの所に預けられてしまった。
 誠に遺憾である。



「マスター。アルバイトの応募者の方なんですけど~、一人しか来なかったから採用でいいですよね~」

 ギルド職員であっても森の街育ちの彼女はやはり大雑把である。

「あ? 良いわけねぇだろ。って言いたいところだが……。そうも言ってられねぇくらい人手が足りないのも確かか」

 渋い声のマスターが憂慮する。

「もう来てますけど~」

 彼女は話す順番も大雑把だ。

「そういうことは先に言え!」


 叱るマスターの前に連れてこられた〝応募者の方〟は白くてもこもこしていた。


「どうやって剥がしたんだそれ……」

 マスターは額に手を当て苦い顔をした。
 クマちゃんの両手には酒場の壁から剥がしたであろう〝アルバイト募集〟と書かれた紙がある。
 先程まで、このもこもこは机の上に居たはずだ。
 いつの間に隣の部屋まで移動したのか。

 常識的に考えて、このもこもこを採用しても人手が増えたことにはならない。
 しかし意外とかわいいもの好きのマスターは、一生懸命両手で紙を見せてくるもこもこに〝クマちゃんは不採用〟と言うことが出来なかった。


 新人アルバイタークマちゃんが出来そうな仕事を探すほうが難しいが、やる気に満ちた新人に仕事を振らないわけにもいかない。
 もし、一人で外出させて白いもこもこが怪我でもすれば、ルークはどうするだろうか。
 あいつは何を考えているのかわからなすぎて、予想がつかない。
 ギルド最強の男を敵に回すわけにはいかないだろう。

 では、室内で出来る仕事。
 そしてクマちゃんでも出来る仕事。

 間違いなく、先程より手間が増えたことを感じたマスターだった。