「こ、こらミスティ何を言っておる!」
魔王さまには精霊使いの素養がある――そんなミスティの言葉に、なぜか幼女魔王さまは焦った様子を見せた。
「へぇ、魔王さまは精霊使いなのか。なら精霊騎士の俺と同じだな」
騎士になった精霊使いが精霊騎士だから、精霊使いという意味において俺と魔王さまは同じだ。
「同じ……まぁ、おおざっぱに見れば、そうとも言えなくはない……かの?」
「そっかそっか。だから精霊について詳しかったんだな、納得だよ」
「う、うむ……じゃがその妾は――」
「実はさ、俺って自分以外の精霊使いとは会ったことがなかったんだよ。精霊と交感できるのは100万人に一人って話だし」
「そ、そうなのじゃ! 精霊と交感できるというだけで、本来はものごっつい凄い才能なのじゃよ! レアジョブでレアスキルなのじゃよ! だから上位精霊と契約できんでも全然ちっとも不思議では――」
「そうだ、せっかくだから魔王さまの精霊を見せてくれないか?」
「うぇっ!? いやそれはその――あの――えっと――」
「おいおい、出し惜しみする気かよ? 俺もいっぱい見せてやっただろ? な、頼むよ。他人の使う精霊や精霊術って見たことがないからさ。一度見てみたいんだ」
俺は両手を合わせてお願いをする。
「じゃがしかし、ハルトほどの使い手が見ても、あまり面白いものではないというか……」
なおも渋る幼女魔王さまだったんだけど、
「魔王さま、命の恩人であるハルト様がこうまで仰っておられるのですよ? 応えるのが、一国の王としてのあるべき姿ではないでしょうか」
ミスティが俺の援護に回ってこれで2対1。
つまり多数決で俺の勝ちとなる。
「うぅ、分かったのじゃ。そこまで言うなら見せるのじゃ……」
「おお、ありがとう魔王さま! いやー楽しみだなぁ。どんな精霊だろ? 俺なんだかワクワクしてきたよ」
「まるで子供のように目を輝かせておるのじゃ。高すぎる期待に胃が痛いのじゃ……やっぱ止めてもいいかの?」
「わくわく、わくわく!」
「むぅ、もはや断れる雰囲気でないのじゃ。のぅハルト、呆れるでないぞ?」
「なんで呆れるんだよ? ほらそんなことより早く早く! 俺もう待ちきれないよ」
「ううっ、では、始めるのじゃ……『其は深炎に住まう業火の欠片――』」
ついに、幼女魔王さまが意を決したように呪文を唱え始めた。
「おおっ、言霊を使った『精霊詠唱』だ! しかもこの荘厳な呪文! これはすごい精霊を召喚するに違いない!」
俺には必要ないからほぼ全て無詠唱なんだけど、文献などによると、精霊を使役するには本来精霊詠唱を唱えなくてはならないらしい。
「『廻りて廻る紅の化身よ、盟約に従い我が前に馳せ参じよ――』」
「この文脈からして炎系だよな。最上位の【イフリート】ではないにしても、上位精霊の【サラマンダー】か【炎の雄牛】あたりを呼び出そうとしていると見た!」
「『その不滅の炎でもって、我が敵を焼き尽くしたまえ――』」
「わくわく、わくわく……!」
幼女魔王さまの【精霊詠唱】が今まさにクライマックスを迎える!
そうして、
「出でよ――! 炎精霊【火トカゲ】!」
ポン!っと可愛い音がしたかと思ったら、手のひらサイズの小さな赤いトカゲさんが姿を現した。
「【火トカゲ】……?」
それは炎の最下級精霊である【火トカゲ】だった。
全力を出すと、マッチ10本に同時に火をつけたくらいの火力を10秒ほど出すことができる。
しかも、
「く――っ!」
幼女魔王さまが苦しそうに顔をゆがめると、【火トカゲ】の姿はすぐに霞のように薄れ消えていった。
召喚されてから顕現時間わずか5秒という刹那の出来事だった。
「えっと、今のは?」
「妾の契約精霊【火トカゲ】を呼び出したのじゃ……」
「かなり物々しい精霊詠唱をしていたよな?」
「とっても頑張ったのじゃ……」
「改めて確認なんけど、今5秒ほど【火トカゲ】が召喚されたように見えたんだけど」
「だから渾身の力で【火トカゲ】を呼び出したと言っとるんじゃわい! 察しが悪いなぁもう!」
「そ、そうか」
「だーっ! だから言ったのじゃ! 面白くもなんともないと! 妾の言った通りであろう!」
「うん。なんかごめん」
謝ったというのに、幼女魔王さまのブチ切れは止まらなかった。
「だいたい精霊と交感できるというだけで、本来はものごっつい凄いことなんじゃぞ!? 100万人に1人いるかいないかの超レアスキルなのじゃぞ!? 契約して呼び出せるのは、さらに一握りなのじゃぞ!? なのになんじゃい! 無詠唱で【イフリート】を召喚した上に、挙句の果てに肉を焼くのに使うじゃと!? ふざけるなバカーーーーーーーっ!!!!」
ハァハァと息も絶え絶えに、幼女魔王さまは魂の叫びをシャウトした。
「ごめんな魔王さま。俺、他の精霊使いと会うのは初めてだったからさ。俺ぐらい精霊を使役できるのが当たり前なんだとばかり思っていたんだ」
「あんなもんが当たり前の訳あるかい! ……はぁ、もう良いのじゃ。見ての通り妾にハルトのようなずば抜けた才能はないのじゃよ。なにせ自他ともに認めるへっぽこ魔王じゃからのぅ」
少し気落ちしたように、幼女魔王さまは最後は小さなかすれ声で、そうポツリとつぶやいた。
魔王さまには精霊使いの素養がある――そんなミスティの言葉に、なぜか幼女魔王さまは焦った様子を見せた。
「へぇ、魔王さまは精霊使いなのか。なら精霊騎士の俺と同じだな」
騎士になった精霊使いが精霊騎士だから、精霊使いという意味において俺と魔王さまは同じだ。
「同じ……まぁ、おおざっぱに見れば、そうとも言えなくはない……かの?」
「そっかそっか。だから精霊について詳しかったんだな、納得だよ」
「う、うむ……じゃがその妾は――」
「実はさ、俺って自分以外の精霊使いとは会ったことがなかったんだよ。精霊と交感できるのは100万人に一人って話だし」
「そ、そうなのじゃ! 精霊と交感できるというだけで、本来はものごっつい凄い才能なのじゃよ! レアジョブでレアスキルなのじゃよ! だから上位精霊と契約できんでも全然ちっとも不思議では――」
「そうだ、せっかくだから魔王さまの精霊を見せてくれないか?」
「うぇっ!? いやそれはその――あの――えっと――」
「おいおい、出し惜しみする気かよ? 俺もいっぱい見せてやっただろ? な、頼むよ。他人の使う精霊や精霊術って見たことがないからさ。一度見てみたいんだ」
俺は両手を合わせてお願いをする。
「じゃがしかし、ハルトほどの使い手が見ても、あまり面白いものではないというか……」
なおも渋る幼女魔王さまだったんだけど、
「魔王さま、命の恩人であるハルト様がこうまで仰っておられるのですよ? 応えるのが、一国の王としてのあるべき姿ではないでしょうか」
ミスティが俺の援護に回ってこれで2対1。
つまり多数決で俺の勝ちとなる。
「うぅ、分かったのじゃ。そこまで言うなら見せるのじゃ……」
「おお、ありがとう魔王さま! いやー楽しみだなぁ。どんな精霊だろ? 俺なんだかワクワクしてきたよ」
「まるで子供のように目を輝かせておるのじゃ。高すぎる期待に胃が痛いのじゃ……やっぱ止めてもいいかの?」
「わくわく、わくわく!」
「むぅ、もはや断れる雰囲気でないのじゃ。のぅハルト、呆れるでないぞ?」
「なんで呆れるんだよ? ほらそんなことより早く早く! 俺もう待ちきれないよ」
「ううっ、では、始めるのじゃ……『其は深炎に住まう業火の欠片――』」
ついに、幼女魔王さまが意を決したように呪文を唱え始めた。
「おおっ、言霊を使った『精霊詠唱』だ! しかもこの荘厳な呪文! これはすごい精霊を召喚するに違いない!」
俺には必要ないからほぼ全て無詠唱なんだけど、文献などによると、精霊を使役するには本来精霊詠唱を唱えなくてはならないらしい。
「『廻りて廻る紅の化身よ、盟約に従い我が前に馳せ参じよ――』」
「この文脈からして炎系だよな。最上位の【イフリート】ではないにしても、上位精霊の【サラマンダー】か【炎の雄牛】あたりを呼び出そうとしていると見た!」
「『その不滅の炎でもって、我が敵を焼き尽くしたまえ――』」
「わくわく、わくわく……!」
幼女魔王さまの【精霊詠唱】が今まさにクライマックスを迎える!
そうして、
「出でよ――! 炎精霊【火トカゲ】!」
ポン!っと可愛い音がしたかと思ったら、手のひらサイズの小さな赤いトカゲさんが姿を現した。
「【火トカゲ】……?」
それは炎の最下級精霊である【火トカゲ】だった。
全力を出すと、マッチ10本に同時に火をつけたくらいの火力を10秒ほど出すことができる。
しかも、
「く――っ!」
幼女魔王さまが苦しそうに顔をゆがめると、【火トカゲ】の姿はすぐに霞のように薄れ消えていった。
召喚されてから顕現時間わずか5秒という刹那の出来事だった。
「えっと、今のは?」
「妾の契約精霊【火トカゲ】を呼び出したのじゃ……」
「かなり物々しい精霊詠唱をしていたよな?」
「とっても頑張ったのじゃ……」
「改めて確認なんけど、今5秒ほど【火トカゲ】が召喚されたように見えたんだけど」
「だから渾身の力で【火トカゲ】を呼び出したと言っとるんじゃわい! 察しが悪いなぁもう!」
「そ、そうか」
「だーっ! だから言ったのじゃ! 面白くもなんともないと! 妾の言った通りであろう!」
「うん。なんかごめん」
謝ったというのに、幼女魔王さまのブチ切れは止まらなかった。
「だいたい精霊と交感できるというだけで、本来はものごっつい凄いことなんじゃぞ!? 100万人に1人いるかいないかの超レアスキルなのじゃぞ!? 契約して呼び出せるのは、さらに一握りなのじゃぞ!? なのになんじゃい! 無詠唱で【イフリート】を召喚した上に、挙句の果てに肉を焼くのに使うじゃと!? ふざけるなバカーーーーーーーっ!!!!」
ハァハァと息も絶え絶えに、幼女魔王さまは魂の叫びをシャウトした。
「ごめんな魔王さま。俺、他の精霊使いと会うのは初めてだったからさ。俺ぐらい精霊を使役できるのが当たり前なんだとばかり思っていたんだ」
「あんなもんが当たり前の訳あるかい! ……はぁ、もう良いのじゃ。見ての通り妾にハルトのようなずば抜けた才能はないのじゃよ。なにせ自他ともに認めるへっぽこ魔王じゃからのぅ」
少し気落ちしたように、幼女魔王さまは最後は小さなかすれ声で、そうポツリとつぶやいた。