「勝ったのじゃ! ハルトが勝ったのじゃ!」
「まさか聖剣を持った勇者に勝ってしまうだなんて……ハルト様はなんと凄いのでしょうか」
戦いの様子を固唾を飲んで見守っていた幼女魔王さまとミスティが、俺の勝利を見届けると一目散に駆け寄ってきた。
その顔には驚きと喜びが、これでもかと溢れ出していたんだけれど――、
「来るな――っ!」
俺は荒々しい怒鳴り声で、2人が近づくのを制止した。
「ハルト?」
「ハルト様?」
俺のとった予想外の行動に、2人は面食らったように、驚いた様子でお互いに顔を見合わせる。
でもダメだなんだ。
「俺に近づいちゃいけない!」
「あの、ハルト様?」
「ハルトよ、急に何を言っておるのじゃ――はっ!」
さすが精霊使いの素養があるだけあって、幼女魔王さまは気付いてくれたか。
「これはいかんのじゃ! ハルトの中で精霊が暴走しかけておるのじゃ!」
焦った声をあげる魔王さまに、
「暴走……ですか?」
ミスティがよく分からないといった顔で問いかける。
「今のハルトは、破壊精霊【シ・ヴァ】の制御がまったくきいておらぬのじゃ!」
「制御がきいていない!? そんな――!」
魔王さまの言うとおりだった。
俺の中に顕現した破壊精霊【シ・ヴァ】が、「こんなものでは物足りない」とばかりに激しく暴れはじめたのだ!
原初の破壊精霊【シ・ヴァ】。
それは創世神話に語られる最強の精霊だ。
新世界の誕生前に、旧世界を存在ごと消滅させると言われる、全てを無に帰す禁断の始原精霊――それが【シ・ヴァ】だ。
俺が【シ・ヴァ】を顕現させたのは、北の魔王ヴィステムとの最終決戦で勇者たちパーティメンバーを決戦に送り込むために、その腹心である四天王の1人を俺一人で足止めした時以来、2度目のことだったんだけど――。
「ぐぅっ、だめだ……前と違ってまったく言うことをきいてくれない……! くっ、ぐぅ……! がはっ――」
前回よりも今回の方が、【シ・ヴァ】の存在感がはるかに大きい……っ!
「1回目をベースに、より密度を増して顕現しているのか……!」
もはや俺には、【シ・ヴァ】が暴れ出そうとするのを、ただひたすら堪えるより他にできることはなかった。
「あの、魔王さま。初歩的な質問で恐縮なのですが、精霊が暴走するとどうなるのでしょうか?」
「妾も初めてのことで、実のところはよくは分からんのじゃが。どうもハルトの心がどんどんと【シ・ヴァ】によって塗り替えられていっておるように、喰われているように――そんな風に妾には見えるのじゃ」
「ハルト様の心が【シ・ヴァ】に食われている……!?」
「【シ・ヴァ】は世界そのものを『無』へと変える禁断の破壊精霊と言われておる。人の心を消し去ることくらいは容易いであろうの」
「そんな……」
「もしこのまま制御がきかぬ状態で、最強の破壊精霊たる【シ・ヴァ】が解放されるとなれば、南部魔国は――いやこの大陸そのものが滅び消え去るやもしれぬ」
「た、大陸が消え去る……」
幼女魔王さまの途方もない予測に、ミスティが絶句した。
「この世界で最強の武器と呼び声高い聖剣。その全力開放に打ち勝つほどの力を、ハルトが最後の最後まで使う素振りすら見せなかったのは、いったいなぜかと思っていたのじゃが――」
「出し惜しみしていたのではなく、制御できないから使うことができなかったのですね?」
「そういうことじゃろうの」
「確かにこれほどの力であれば、さもありなんです――」
幼女魔王さまとミスティはのんきにそんな会話をしていたんだけど、
「2人とも! そんな話は今はいいから! 一秒でも早くここを離れるんだ! でないと――くっ、だめだ! 出てくるな【シ・ヴァ】! もう一度、眠りについてくれ! 頼む、お願いだから眠ってくれ! あぐ、ぐぅ、グぁ、グギ――グァァァァ!!」
でないと――でなイト、俺が、俺でなくなってシマウ。
俺ガ、オレへと、変ワってシマウ――!
『オレ』は荒ぶる心に突き動かされるようにして、黒曜の精霊剣・プリズマノワールを一振りした。
すると刃から巨大な漆黒の波動が放たれ、射線上にあった山が一つ、上半分が轟音と共に消し飛ぶ。
文字通り跡形もなく消えてなくなった。
「たった一振りで山が半分、消失するなんて……」
「なんという凄まじい破壊力なのじゃ」
漆黒の一撃を唖然と見つめている2人は――ああだめだ、もう逃げられない。もう助からない――なぜなら『オレ』がこの世の全てを破壊するからだ。外などない――この野郎、引っ込めっつってんだろ!
くっ、でもダメだ。
もうあと少しで【シ・ヴァ】が完全覚醒してしまう。
世界そのもののような強大な精霊力を、人間という小さな器ではとうてい抑えきれない……!
俺が甘かった、甘すぎた。
前回どうにか抑え込めたから、だから今回もできるだろうってそんな風に考えちまった。
俺のせいで世界が滅ぶのか――いいや違う、『オレ』が世界を滅ぼすのだ。
もう……だめだ、心が飲み込まれル……とても堪えきれナイ――。
相手は最強の破壊精霊【シ・ヴァ】だって言うのニ――俺ハなんて腑抜けた考えヲしてしまったンダ――俺は、オレは――、
「――そうだ、オレが【シ・ヴァ】だ」
「まさか聖剣を持った勇者に勝ってしまうだなんて……ハルト様はなんと凄いのでしょうか」
戦いの様子を固唾を飲んで見守っていた幼女魔王さまとミスティが、俺の勝利を見届けると一目散に駆け寄ってきた。
その顔には驚きと喜びが、これでもかと溢れ出していたんだけれど――、
「来るな――っ!」
俺は荒々しい怒鳴り声で、2人が近づくのを制止した。
「ハルト?」
「ハルト様?」
俺のとった予想外の行動に、2人は面食らったように、驚いた様子でお互いに顔を見合わせる。
でもダメだなんだ。
「俺に近づいちゃいけない!」
「あの、ハルト様?」
「ハルトよ、急に何を言っておるのじゃ――はっ!」
さすが精霊使いの素養があるだけあって、幼女魔王さまは気付いてくれたか。
「これはいかんのじゃ! ハルトの中で精霊が暴走しかけておるのじゃ!」
焦った声をあげる魔王さまに、
「暴走……ですか?」
ミスティがよく分からないといった顔で問いかける。
「今のハルトは、破壊精霊【シ・ヴァ】の制御がまったくきいておらぬのじゃ!」
「制御がきいていない!? そんな――!」
魔王さまの言うとおりだった。
俺の中に顕現した破壊精霊【シ・ヴァ】が、「こんなものでは物足りない」とばかりに激しく暴れはじめたのだ!
原初の破壊精霊【シ・ヴァ】。
それは創世神話に語られる最強の精霊だ。
新世界の誕生前に、旧世界を存在ごと消滅させると言われる、全てを無に帰す禁断の始原精霊――それが【シ・ヴァ】だ。
俺が【シ・ヴァ】を顕現させたのは、北の魔王ヴィステムとの最終決戦で勇者たちパーティメンバーを決戦に送り込むために、その腹心である四天王の1人を俺一人で足止めした時以来、2度目のことだったんだけど――。
「ぐぅっ、だめだ……前と違ってまったく言うことをきいてくれない……! くっ、ぐぅ……! がはっ――」
前回よりも今回の方が、【シ・ヴァ】の存在感がはるかに大きい……っ!
「1回目をベースに、より密度を増して顕現しているのか……!」
もはや俺には、【シ・ヴァ】が暴れ出そうとするのを、ただひたすら堪えるより他にできることはなかった。
「あの、魔王さま。初歩的な質問で恐縮なのですが、精霊が暴走するとどうなるのでしょうか?」
「妾も初めてのことで、実のところはよくは分からんのじゃが。どうもハルトの心がどんどんと【シ・ヴァ】によって塗り替えられていっておるように、喰われているように――そんな風に妾には見えるのじゃ」
「ハルト様の心が【シ・ヴァ】に食われている……!?」
「【シ・ヴァ】は世界そのものを『無』へと変える禁断の破壊精霊と言われておる。人の心を消し去ることくらいは容易いであろうの」
「そんな……」
「もしこのまま制御がきかぬ状態で、最強の破壊精霊たる【シ・ヴァ】が解放されるとなれば、南部魔国は――いやこの大陸そのものが滅び消え去るやもしれぬ」
「た、大陸が消え去る……」
幼女魔王さまの途方もない予測に、ミスティが絶句した。
「この世界で最強の武器と呼び声高い聖剣。その全力開放に打ち勝つほどの力を、ハルトが最後の最後まで使う素振りすら見せなかったのは、いったいなぜかと思っていたのじゃが――」
「出し惜しみしていたのではなく、制御できないから使うことができなかったのですね?」
「そういうことじゃろうの」
「確かにこれほどの力であれば、さもありなんです――」
幼女魔王さまとミスティはのんきにそんな会話をしていたんだけど、
「2人とも! そんな話は今はいいから! 一秒でも早くここを離れるんだ! でないと――くっ、だめだ! 出てくるな【シ・ヴァ】! もう一度、眠りについてくれ! 頼む、お願いだから眠ってくれ! あぐ、ぐぅ、グぁ、グギ――グァァァァ!!」
でないと――でなイト、俺が、俺でなくなってシマウ。
俺ガ、オレへと、変ワってシマウ――!
『オレ』は荒ぶる心に突き動かされるようにして、黒曜の精霊剣・プリズマノワールを一振りした。
すると刃から巨大な漆黒の波動が放たれ、射線上にあった山が一つ、上半分が轟音と共に消し飛ぶ。
文字通り跡形もなく消えてなくなった。
「たった一振りで山が半分、消失するなんて……」
「なんという凄まじい破壊力なのじゃ」
漆黒の一撃を唖然と見つめている2人は――ああだめだ、もう逃げられない。もう助からない――なぜなら『オレ』がこの世の全てを破壊するからだ。外などない――この野郎、引っ込めっつってんだろ!
くっ、でもダメだ。
もうあと少しで【シ・ヴァ】が完全覚醒してしまう。
世界そのもののような強大な精霊力を、人間という小さな器ではとうてい抑えきれない……!
俺が甘かった、甘すぎた。
前回どうにか抑え込めたから、だから今回もできるだろうってそんな風に考えちまった。
俺のせいで世界が滅ぶのか――いいや違う、『オレ』が世界を滅ぼすのだ。
もう……だめだ、心が飲み込まれル……とても堪えきれナイ――。
相手は最強の破壊精霊【シ・ヴァ】だって言うのニ――俺ハなんて腑抜けた考えヲしてしまったンダ――俺は、オレは――、
「――そうだ、オレが【シ・ヴァ】だ」