俺の【精霊詠唱】を受けて、黒曜の精霊剣・プリズマノワールがドクンと大きく一度脈を打った。
 その直後、漆黒の刃がさらに深みを増したかと思うと、闇を凝縮したような禍々(まがまが)しいオーラが立ち昇り始める。

「な、なんだ――っ!?」
 勇者も尋常ならざる気配を感じ取ったのだろう、即座に聖剣を正眼に構えなおした。
 しかしその間にも俺の詠唱は続いてゆく。

「悠久の眠りを妨げし我が愚かなる行いに、どうか御心(みこころ)の片隅を傾けたまえ――。始まりの精霊――。全にして一、一にして全――。今ここに顕現せよ――! 原初の精霊王、全てを無に()す破壊精霊【シ・ヴァ】よ――!」

 ――…………――

 力ある言葉が()の名を告げたと同時に、黒曜の精霊剣・プリズマノワールから立ち昇っていた漆黒のオーラが、今度は俺の身体を覆い始める!

「な、なんだその力は!? なんなんだよ、ほんとなんなんだよ!」

「黒曜の精霊剣・プリズマノワールに封印されていた原初の破壊精霊【シ・ヴァ】を顕現させた。全てを灰燼(かいじん)に帰す最強の破壊精霊をな。お前はもう終わりだ、勇者」

「原初の破壊精霊【シ・ヴァ】だと? 【セフィロト】だけでなく、まだ奥の手を隠していたのか! だが調子に乗るなよ。君がそう来るというのなら、僕も見せてやろうじゃないか、勇者の究極奥義を! 天使顕現セラフィム・コール・フルバースト!」

 勇者の言葉と共に、聖剣から白銀のオーラが湯気のように立ち昇り始める。
 それは顕現した原初の破壊精霊【シ・ヴァ】の力にも匹敵する、人知を超えたまさに最強の力だった。

「さぁハルト。いい加減に白黒はっきりつけようじゃないか」
「俺が黒で、お前が白か。なかなか上手いこと言うな」
「その余裕がどこまで続くかな! ハァァァァッ!」

 裂帛(れっぱく)の気合とともに、天使の力を全力開放した【勇者】が神速の踏み込みでもって斬り込んでくる!

 それを俺は、

「おおおぉぉっっ!」
 原初の破壊精霊【シ・ヴァ】の力でもって真正面から受けて立った!

 ギン!
 ギャギン!
 ギン!
 ガン、ギャギギン!

 白と黒が。
 天使と精霊が。
 聖剣と黒曜の精霊剣・プリズマノワールが。

 世界最強を誇る双の極たる力が、互いに互いをねじ伏せんとぶつかり合い、嵐のように荒れ狂う!

「オラァ――ッ!」
「おおぉ――ッ!」

 戦いはどちらが上というのは全くない、完全に互角だった。
 互いに一歩も引かず、腹の底からの全力全開をぶつけ合い、放ち合う。

「ハァァァァァッッ!!」
「おおおおおおおおおおッ!!」

 ギン!
 ガン、ギャギン!
 ギン! ギャギギン!
 ガンギン!
 ギャギャン!

 黒曜の精霊剣・プリズマノワールと聖剣を打ち合うごとに、俺たちの攻撃はさらに激しさと苛烈さを増してゆく。
 しかし、お互い人の身に余る力を使い続けており、その消耗は想像を絶するほどに激しいものだった。

「くっ、このおおおおおっ!」
 勇者が負荷による苦痛を気迫で噛み殺しながら、聖剣を振るう!

「負けるものかよ!」
 俺も負けじと必死に歯を食いしばって、黒曜の精霊剣・プリズマノワールで斬り返す!

 戦闘力は完全に互角。
 ならばあとは、どちらの想いが強いかが勝敗を決める!

「僕は最強最高の勇者になって、望む全てを手に入れる! 手に入れてみせる! 僕にはその権利がある!」
 天使の力が膨大に膨れ上がるとともに、勇者が渾身の上段斬りを叩き込んでくる!

 それを俺は、
「どこまでも一人よがりのお前の妄想に、愛され魔王さまとのスローライフを願う俺の想いが、負けるわけけないだろうが!」
 ここが勝負どころとばかりに同じく渾身の上段斬りを叩き込んだ!

 ガギィィィンッ!

どこまでも無限に続くと思われた我慢比べは、しかしあっけないほど一瞬で決した。
耳をつんざく金属音と共に、聖剣が勇者の手を離れて宙を舞う。

「ばか、な……、僕は最強の勇者なのに――」

 俺の前に、呆気(あっけ)にとられたように目を見開いた勇者の顔があった。
 俺はほんのわずかに浮かんだ同情を捨て去ると、
「この勝負、俺の勝ちだ」
 一刀のもとに勇者を斬り伏せた。