魔王さまとミスティを見送った後。
 俺は数日ほど、何をするでもなくだらだらと無為に日々を過ごしていた。

「外に行く気にはなれないな。今日もラノベでも読むか」
 今日も今日とてどうにも外に出る気が起きなかった俺は、部屋にこもってラノベを読み始める。

「街に出ると幼女魔王さまやミスティの顔が浮かんできて『あ、ここでこんな話をしたな』とか思い出しちゃうんだよな」

 そのたびに今、何もできないでいる自分を再認識してしまい、テンションが下がってしまうのだ。
 そういうわけだったので俺は部屋にこもって、愛読書である『無敵転生』を読み直していたんだけれど――、

「だめだ、ちっとも気分が乗らない」
 あれだけ大好きで何度も読み返した『無敵転生』の第一巻を、俺は読み始めてすぐだというのにもう投げ出してしまっていた。

「はぁ……」
 俺は大きなため息をつくと、まだ午前中だというのに行儀悪くベッドにゴロンと横になる。
 手足を投げ出してぼぅっと天井を見つめると、すぐに幼女魔王さまとミスティのことが思い浮かんできた。

「あれからどうなったのかな。野戦をするって言ってたよな。兵力差を押し付けられる野戦も悪くはないけど、もっと手堅くいくなら籠城戦(ろうじょうせん)だ。それを敢えてしなかったのは十中八九、魔王さまの意向なんだろうな」

 短期決戦を望む敵には、そうするだけの理由がある。
 それ対して徹底して時間を稼ぐ籠城戦は、極めて有効かつ相手が嫌がる戦法だ。

 勇者はまず間違いなくリーラシア帝国の同意なく攻め込んできている。
 根回しも十分ではないだろう。
 となれば、すぐに食料が尽きるはず。

 だったら幼女魔王さまをどこかに隠しながら各地で籠城戦を続け、勇者の軍が空腹で消耗するのをひたすら待つのが最良の策だ。

 ゲーゲンパレスの北側には、堅牢な城塞都市がいくつもある。
 確実に勝ちに行くなら、野戦よりも城塞都市を利用しての籠城戦を選ぶべきだった。

 けれど幼女魔王さまは、そうはしなかった。
 おそらくだが、勇者の軍が近隣の村や町で略奪を繰り返すと考えたのだろう。

 それだけではなく、ここゲーゲンパレスへの侵攻の可能性もあった。
 ゲーゲンパレスは文化的に優れた都市ではあるものの、防衛力はさほど高くはない。
 さらに最低限の防衛戦力だけを残して主力が北部に出払っている今、籠城する主戦力を放置して、先にゲーゲンパレスが落とされる可能性はゼロとは言えなかった。

 結局のところ、幼女魔王さまは国内への被害をなるべく出さないために、短期決戦に対して短期決戦で挑もうとしているのだ。

「人のいい魔王さまのことだ。最悪の場合、自分の命を差し出すことで和睦(わぼく)に持ち込もうとか考えているんだろうな」

 くそっ、分かっているのに何もできないでいることが、無性にイライラする……!

「だめだ。部屋にこもっていても、同じことばっかり考えて堂々巡りになっちまう。そうだな。今日は気分転換にメイド喫茶に行って、メイドさんと楽しくお話でもするか」

 無力感からくるもやもやをどうにも処理しきれないでいた俺は、ガバッと起き上がると、ゲーゲンパレスに来て最初に案内してもらって以来、何度も通っている「お・も・て・な・し」が素晴らしいメイド喫茶へと向かった。