この日は幼女魔王さまとミスティが、俺の部屋に遊びにきていた。
「ハルトは将棋はできるのかの?」
「チェスも将棋もそれなりに上手いと思うぞ」
「ほぅ、なかなかの自信じゃの。では妾と一勝負せぬか?」
「いいだろう、受けてたとう」
…………
……
「8八角成じゃ! くくく、もはやハルトの王は風前の灯じゃの」
「ふむ………………、4一銀」
「4一銀じゃと? なんじゃそのしょぼい単発王手は? ここで妾の飛車を取らずにしょぼい王手をかけるなど、子供でもやらぬ悪手――って、うええっ!? ちょ、えっ!? これあと十数手で妾の王が詰まれちゃうのじゃけど!?」
「ま、そういうことだ」
「くぅぅ! やりおるのハルト! これはまさに神の一手じゃ!」
「だから上手いって言っただろ」
俺と幼女魔王さまが、将棋で白熱のバトルを繰り広げていると、
「はぁ……」
ミスティが窓の外を見ながら、小さな声でため息をついた。
聞こえるか聞こえないかの本当に小さな声だったけど、おせっかいな風の上位精霊【シルフィード】が気を利かせて、本来なら聞こえないはずの言葉を、風に乗せて俺に届けてくれたのだ。
【シルフィード】がわざわざ俺の耳に入れたってことは、突っ込んで聞いてみた方がいいんだろうな。
「ミスティがため息なんて珍しいな。なにかあったのか? もしくは疲れてるとか?」
「はわっ! ご不快にさせてしまい申し訳ありません。いたって元気ですし、特になにかあるわけではありませんので、ご安心ください」
謝罪の言葉と共に深々と頭を下げるミスティ。
「ごめん、責めたわけじゃないんだ。ちょっと気になっただけでさ。疲れているなら休んだ方が」
「お心遣いありがとうございます。ですが本当にそういうわけではありませので」
そういってにっこり笑ったミスティは、確かに疲れているようには見えなかった。
「ならいいんだけどな」
特に何事もなく話が終わろうとしたところに――、
「ミスティはの。ここに来る前、見合いの話を断ったのじゃよ」
これ幸いと幼女魔王さまが話にのっかってきた。
それもちょっと嬉しそうに。
「ま、魔王さま! この件はハルト様には内緒にすると、何度も念を押したではありませんか!」
するとなぜかミスティが急にあたふたしだしたのだ。
「おおこれはすまぬ。妾としたことがてっきり忘れておったのじゃ。将棋で白熱し過ぎたからかのう」
「わざとですね魔王さま」
「いやーすまぬ。ちょちょーっと口が滑ってしまったのじゃ。まったくいけないお口なのじゃ」
「うぅ……っ、絶対嘘です」
これまた珍しく、ミスティが魔王さまへの抗議の意思を見せる。
魔王さまがわざと言った理由はさっぱり分からないんだけど、どうもミスティはこの話を俺に聞かれたくなかったようだ。
もしかしたら――。
「大丈夫、ちゃんと俺は分かってるよ」
「は、ハルト様!?」
「もしやハルト、ミスティの気持ちを分かっておるのか?」
ミスティが傾聴! って感じでピンと背筋を伸ばし、幼女魔王さまは温泉にタヌキが入っているのでも見たかのような、驚いた顔をする。
えっと、なんでそんな大げさなリアクションなんだ?
いや、いいんだけどさ。
「なんとなく想像はつくよ。つまりこういうことだろ? ミスティくらい美人になると、相手も相当のイケメンじゃないとトキメキを感じないんだよな?」
「えっと……はい?」
どうしてか、ミスティが小首をかしげ。
「ハルト、もしかしなくとも、ちーっとも分かってないのかえ?」
幼女魔王さまはジト目になった。
「だから分かってるって。エルフは美意識が特に高い種族だってことくらい俺も知ってるから。心がときめくのは自分より綺麗な相手だけ、とかちょっと大げさだけどそんな風に言われるくらいだもんな」
「いえ、あの、そういうことでは――」
「だから相手を選り好みしてるとか、そんな風には思ったりはしていないから。これはエルフって種族の生まれ持っての特性だからな。だから安心してくれミスティ」
「あ、はい……お心遣い……ありがとうございます……」
ありがとうと言いながら、なぜかミスティはがっくり意気消沈していた。
「ハルトはよく『にぶにぶにぶにぶにぶにぶにぶちん』と言われるじゃろ、言われまくりじゃろ」
「だからそんなことないってば。自分で言うのもなんだが俺は割と気が利く方だ」
「ほんと自分で言うのもなんじゃの」
どうしてだか、呆れたような顔をしながら、幼女魔王さまがやれやれと肩をすくめた。
「ハルトは将棋はできるのかの?」
「チェスも将棋もそれなりに上手いと思うぞ」
「ほぅ、なかなかの自信じゃの。では妾と一勝負せぬか?」
「いいだろう、受けてたとう」
…………
……
「8八角成じゃ! くくく、もはやハルトの王は風前の灯じゃの」
「ふむ………………、4一銀」
「4一銀じゃと? なんじゃそのしょぼい単発王手は? ここで妾の飛車を取らずにしょぼい王手をかけるなど、子供でもやらぬ悪手――って、うええっ!? ちょ、えっ!? これあと十数手で妾の王が詰まれちゃうのじゃけど!?」
「ま、そういうことだ」
「くぅぅ! やりおるのハルト! これはまさに神の一手じゃ!」
「だから上手いって言っただろ」
俺と幼女魔王さまが、将棋で白熱のバトルを繰り広げていると、
「はぁ……」
ミスティが窓の外を見ながら、小さな声でため息をついた。
聞こえるか聞こえないかの本当に小さな声だったけど、おせっかいな風の上位精霊【シルフィード】が気を利かせて、本来なら聞こえないはずの言葉を、風に乗せて俺に届けてくれたのだ。
【シルフィード】がわざわざ俺の耳に入れたってことは、突っ込んで聞いてみた方がいいんだろうな。
「ミスティがため息なんて珍しいな。なにかあったのか? もしくは疲れてるとか?」
「はわっ! ご不快にさせてしまい申し訳ありません。いたって元気ですし、特になにかあるわけではありませんので、ご安心ください」
謝罪の言葉と共に深々と頭を下げるミスティ。
「ごめん、責めたわけじゃないんだ。ちょっと気になっただけでさ。疲れているなら休んだ方が」
「お心遣いありがとうございます。ですが本当にそういうわけではありませので」
そういってにっこり笑ったミスティは、確かに疲れているようには見えなかった。
「ならいいんだけどな」
特に何事もなく話が終わろうとしたところに――、
「ミスティはの。ここに来る前、見合いの話を断ったのじゃよ」
これ幸いと幼女魔王さまが話にのっかってきた。
それもちょっと嬉しそうに。
「ま、魔王さま! この件はハルト様には内緒にすると、何度も念を押したではありませんか!」
するとなぜかミスティが急にあたふたしだしたのだ。
「おおこれはすまぬ。妾としたことがてっきり忘れておったのじゃ。将棋で白熱し過ぎたからかのう」
「わざとですね魔王さま」
「いやーすまぬ。ちょちょーっと口が滑ってしまったのじゃ。まったくいけないお口なのじゃ」
「うぅ……っ、絶対嘘です」
これまた珍しく、ミスティが魔王さまへの抗議の意思を見せる。
魔王さまがわざと言った理由はさっぱり分からないんだけど、どうもミスティはこの話を俺に聞かれたくなかったようだ。
もしかしたら――。
「大丈夫、ちゃんと俺は分かってるよ」
「は、ハルト様!?」
「もしやハルト、ミスティの気持ちを分かっておるのか?」
ミスティが傾聴! って感じでピンと背筋を伸ばし、幼女魔王さまは温泉にタヌキが入っているのでも見たかのような、驚いた顔をする。
えっと、なんでそんな大げさなリアクションなんだ?
いや、いいんだけどさ。
「なんとなく想像はつくよ。つまりこういうことだろ? ミスティくらい美人になると、相手も相当のイケメンじゃないとトキメキを感じないんだよな?」
「えっと……はい?」
どうしてか、ミスティが小首をかしげ。
「ハルト、もしかしなくとも、ちーっとも分かってないのかえ?」
幼女魔王さまはジト目になった。
「だから分かってるって。エルフは美意識が特に高い種族だってことくらい俺も知ってるから。心がときめくのは自分より綺麗な相手だけ、とかちょっと大げさだけどそんな風に言われるくらいだもんな」
「いえ、あの、そういうことでは――」
「だから相手を選り好みしてるとか、そんな風には思ったりはしていないから。これはエルフって種族の生まれ持っての特性だからな。だから安心してくれミスティ」
「あ、はい……お心遣い……ありがとうございます……」
ありがとうと言いながら、なぜかミスティはがっくり意気消沈していた。
「ハルトはよく『にぶにぶにぶにぶにぶにぶにぶちん』と言われるじゃろ、言われまくりじゃろ」
「だからそんなことないってば。自分で言うのもなんだが俺は割と気が利く方だ」
「ほんと自分で言うのもなんじゃの」
どうしてだか、呆れたような顔をしながら、幼女魔王さまがやれやれと肩をすくめた。