ある日。
「今日はゲルドに行くのじゃ」
幼女魔王さまの言葉に、
「職業組合? いいけど視察かなにかか?」
俺は確認の意もを込めて聞き返した。
ギルドとは職業別の組合のことで、商業ギルドとか冒険者ギルドとか職人ギルドといった様々なものが存在する。
「ハルト様ハルト様、職業組合ではなくゲルドです。ゲーゲンナルドという大手ファーストフード店の略称なんですよ」
しかしミスティの説明を聞くと、どうも職業組合ではなかったようだ。
「ファーストフードっていうと屋台とか立ち食い焼き鳥屋みたいな、頼んですぐに食べられるあれか。お手軽で便利だよな」
「ふふん、ゲルドはそういった中でも別格の存在なのじゃよ。舐めてかかると痛い目にあうのじゃぞ?」
「それは楽しみだな。すぐに用意するよ」
…………
……
というわけで俺と幼女魔王さまとミスティは、王宮からほど近いゲーゲンナルドのチェーン店へとやってきたんだけど、
「これはまたえらくでかいな……!」
俺はまず建物の大きさに驚かされてしまった。
「細長いカウンター席だけ、みたいなこじんまりとしたのを想像してたんだけどさ。ここは普通のレストランの何倍もでかいぞ? 中でゆっくり座って食べられるようになっているのか」
「言ったであろう、ゲルドは別格の存在じゃと。規模を拡大することで収益力を高めるとともに、ゆったりとくつろげることで、子供連れのファミリーにも人気のファーストフード店なのじゃ」
「そういうアプローチなのか、勉強になるな。それにメニューもかなり豊富みたいだし、すごく楽しみだ」
「見て分からぬメニューがあれば、妾かミスティに聞くがよいのじゃ」
「絵が付いているからなんとなく分かるよ。単品とそれを組み合わせたセットメニューがあるんだな。ん? なぁ魔王さま、あれはなんだ?」
「どれなのじゃ?」
「あれだよ、あれ。一番右下にあるやつ。『スマイル0円』って書いてあるんだけど」
「文字通りの意味なのじゃ?」
「スマイルって笑顔だよな? それを頼むのか? しかも無料で? でも店のお姉さんはずっと笑顔を振りまいてるぞ?」
「店の価値観を最も表した『商品』が『スマイル0円』ということじゃよ。笑顔の接客を心がけるお店だというアピールなのじゃ。もちろん頼むと特別にお姉さんにスマイルしてもらえるのじゃよ」
「試しに頼んでみてもいいかな?」
「よいぞ。ただし書いてはおらんが、おひとり様1回限りが暗黙のルールなのじゃ。係のお姉さんも疲れるからの」
「――はっ、そうか! そういうことか!」
ビビっとひらめきを得た俺は、幼女魔王さまの言葉尻に被せるようにして言った。
「ハルト?」「ハルト様?」
「ともすれば客というものは、自分の方が店より偉いと思いがちだ。金を払うからな」
「まぁそうかものぅ」
「だが店が無料である『スマイル0円』を用意し、客も敢えてそれを頼まないことで、店と客が節度を持ったリスペクトしあう関係になる! それが互いを高め合って文化的に発展していくんだ。どうだ、俺もだいぶん最先端文化への理解が深まっただろう?」
「ま、まぁそういうこと、かの……?」
「ハルト様、難しく考える必要はありませんよ。お手軽なのがファーストフートの一番の売りなんですから」
「はっ!? 確かにミスティの言うとおりだった。お手軽さが売りのファーストフード店で、小難しい考えを披露するなんて本末転倒じゃないか! くっ、俺はなんて浅はかだったんだ……!」
俺は軽く息を吸ってはいてすると心機一転、気楽な気持ちでメニューを指さした。
「この一番上のセットメニューと、あと『スマイル0円』をお願いします!」
すると注文担当のお姉さんはにっこりと俺に微笑んでくれる。
素敵な笑顔に、まるで心が洗われるようだった。
「確かに、これは素敵なサービスだな」
また近いうちに来よう。
そう心に誓った俺だった。
「今日はゲルドに行くのじゃ」
幼女魔王さまの言葉に、
「職業組合? いいけど視察かなにかか?」
俺は確認の意もを込めて聞き返した。
ギルドとは職業別の組合のことで、商業ギルドとか冒険者ギルドとか職人ギルドといった様々なものが存在する。
「ハルト様ハルト様、職業組合ではなくゲルドです。ゲーゲンナルドという大手ファーストフード店の略称なんですよ」
しかしミスティの説明を聞くと、どうも職業組合ではなかったようだ。
「ファーストフードっていうと屋台とか立ち食い焼き鳥屋みたいな、頼んですぐに食べられるあれか。お手軽で便利だよな」
「ふふん、ゲルドはそういった中でも別格の存在なのじゃよ。舐めてかかると痛い目にあうのじゃぞ?」
「それは楽しみだな。すぐに用意するよ」
…………
……
というわけで俺と幼女魔王さまとミスティは、王宮からほど近いゲーゲンナルドのチェーン店へとやってきたんだけど、
「これはまたえらくでかいな……!」
俺はまず建物の大きさに驚かされてしまった。
「細長いカウンター席だけ、みたいなこじんまりとしたのを想像してたんだけどさ。ここは普通のレストランの何倍もでかいぞ? 中でゆっくり座って食べられるようになっているのか」
「言ったであろう、ゲルドは別格の存在じゃと。規模を拡大することで収益力を高めるとともに、ゆったりとくつろげることで、子供連れのファミリーにも人気のファーストフード店なのじゃ」
「そういうアプローチなのか、勉強になるな。それにメニューもかなり豊富みたいだし、すごく楽しみだ」
「見て分からぬメニューがあれば、妾かミスティに聞くがよいのじゃ」
「絵が付いているからなんとなく分かるよ。単品とそれを組み合わせたセットメニューがあるんだな。ん? なぁ魔王さま、あれはなんだ?」
「どれなのじゃ?」
「あれだよ、あれ。一番右下にあるやつ。『スマイル0円』って書いてあるんだけど」
「文字通りの意味なのじゃ?」
「スマイルって笑顔だよな? それを頼むのか? しかも無料で? でも店のお姉さんはずっと笑顔を振りまいてるぞ?」
「店の価値観を最も表した『商品』が『スマイル0円』ということじゃよ。笑顔の接客を心がけるお店だというアピールなのじゃ。もちろん頼むと特別にお姉さんにスマイルしてもらえるのじゃよ」
「試しに頼んでみてもいいかな?」
「よいぞ。ただし書いてはおらんが、おひとり様1回限りが暗黙のルールなのじゃ。係のお姉さんも疲れるからの」
「――はっ、そうか! そういうことか!」
ビビっとひらめきを得た俺は、幼女魔王さまの言葉尻に被せるようにして言った。
「ハルト?」「ハルト様?」
「ともすれば客というものは、自分の方が店より偉いと思いがちだ。金を払うからな」
「まぁそうかものぅ」
「だが店が無料である『スマイル0円』を用意し、客も敢えてそれを頼まないことで、店と客が節度を持ったリスペクトしあう関係になる! それが互いを高め合って文化的に発展していくんだ。どうだ、俺もだいぶん最先端文化への理解が深まっただろう?」
「ま、まぁそういうこと、かの……?」
「ハルト様、難しく考える必要はありませんよ。お手軽なのがファーストフートの一番の売りなんですから」
「はっ!? 確かにミスティの言うとおりだった。お手軽さが売りのファーストフード店で、小難しい考えを披露するなんて本末転倒じゃないか! くっ、俺はなんて浅はかだったんだ……!」
俺は軽く息を吸ってはいてすると心機一転、気楽な気持ちでメニューを指さした。
「この一番上のセットメニューと、あと『スマイル0円』をお願いします!」
すると注文担当のお姉さんはにっこりと俺に微笑んでくれる。
素敵な笑顔に、まるで心が洗われるようだった。
「確かに、これは素敵なサービスだな」
また近いうちに来よう。
そう心に誓った俺だった。