「なぁ【ポセイドン】。悪いんだけさ、近くにサメとかクジラとか危険な生物がいないか、ちょっと確認してくれないかな?」
俺が早速お願いをすると、
「しかもまさかのため口じゃと!? 気難しいと言われ、時に神すら海に引きずり込んでボコったと云われる【ポセイドン】相手に、ため口で一方的にお願いするじゃとぉっ!?」
魔王さまがガクガク震えながら白目を剥いて叫んだ。
「それとできれば安全に泳げるように、この辺りに精霊結界を張って欲しいんだけど。できればこの先ずっと続く感じで」
「さらに追加で永続結界を張れとか、かなり無茶な要求までしとるしっ! しちゃっとるし!? しちゃっとるのじゃーー!!」
魔王さまはそう言うと、ついにブクブクと泡を吹いてぶっ倒れてしまった。
ミスティが慌てて支えようとして――ボスッ。
あ、今回は間に合わなかった。
ミスティの対応むなしく、魔王さまは砂浜に顔から突っ込んでしまう。
まぁ砂浜だし大事には至らないだろ。
すぐにミスティに抱き起された魔王さまは、
「ゴクリ……ぜー、はー。ゴクリ……ぜー、はー……」
差し出された水を飲んで、なんとか気持ちを落ち着けようとしていた。
そうこうしている間にも、俺の【ポセイドン】へのお願いは続いていて――。
――よかろう、全ての願いを聞き届けよう――
結局【ポセイドン】はするっとまるっと全部おおらかに了承してくれると、スッと大気に溶けるようにして、その存在を薄れさせていった。
割れた海はすっかり元通りになり、黒雲は消え去って燦燦と輝く太陽が再び顔を出す。
辺りはすっかり平穏無事を取り戻していた。
「そういうわけで安全になったから、これで心置きなく泳げるよ。さーて、初めての海を目一杯楽しむぞ――って、どうしたんだ魔王さま?」
「ど、ど、ど、どうしたもこうしたもあるかーい! 【ポセイドン】じゃぞ、【ポセイドン】! 大時化や大嵐を呼び、時に巨大な水の力で都市をまるごと水に沈めたとまで云われる、伝説の海洋王じゃぞ!? それをお主は一方的に呼びつけた上に、なーにため口であれこれお願いしとるのじゃ!」
「ん? なにか変だったか?」
「なにもかも変じゃわい! 一から十まで全部変じゃったわい! どこの世界に【ポセイドン】を一方的に呼びつけて勝手なお願いを次から次にしまくる奴がおるというのじゃ!」
「今、目の前にいるじゃないか。それにほら、実際にちゃんとお願いも聞いてくれただろ?」
「んほーーーーー! んがぁーーーーー!! ―――――はぅ」
魔王さまは立て続けに奇声を発すると、またもや泡を吹いてぶっ倒れてしまった。
「魔王さま、お気を確かに! 魔王さま、魔王さま――!」
「あれ、また俺なにかやっちゃったか……?」
…………
……
数分後。
「妾、すごく変な夢を見ておったのじゃ。伝説の【ポセイドン】が目の前に現れるという荒唐無稽な夢だったのじゃ」
「それなら夢じゃない――もごもご」
言いかけた俺の口を、ミスティが両手でむぎゅっと塞いでくる。
そして俺の耳元に口を寄せると、小さな声でそっとお願いをささやいた。
「ハルト様、ここはそういうことにしておいてはいただけませんでか? 魔王さまは少し心が疲れておいでなのです」
その言葉に、ああそうか――と俺はすぐに納得をした。
魔王さまが気疲れしている原因を察したからだ。
こくんと頷いてみせると、ミスティは安心したように俺の口から手を離した。
「そうだよな。国民の象徴として、義務しかない大変な生活を送っているんだもんな。それに加えて今は俺の面倒も見てくれているときた。そりゃあ気疲れもするよな」
ちゃんと分かってるよと、小声でミスティに伝えると、
「うーんとまぁ……はい、そうなんです。魔王さまは結構大変なんです」
ミスティは一瞬怪訝な顔をした後、にっこりと笑った。
「ではハルト様、魔王さま。せっかく海に来ているんです。話すのはこれくらいにして、みんなで泳ぎませんか?」
「そうだな」
「賛成なのじゃ。妾ビーチボールも持ってきておるのじゃ。ビーチバレーもするのじゃ」
「ではまずは準備体操をしましょう。ハルト様はその前に着替えを。ハルト様の水着も持ってきておりますので」
「マジか、サンキュー!」
その後。
完全に安全になった海で心行くまで泳ぎ、砂浜で遊んだ俺たちだった。
俺が早速お願いをすると、
「しかもまさかのため口じゃと!? 気難しいと言われ、時に神すら海に引きずり込んでボコったと云われる【ポセイドン】相手に、ため口で一方的にお願いするじゃとぉっ!?」
魔王さまがガクガク震えながら白目を剥いて叫んだ。
「それとできれば安全に泳げるように、この辺りに精霊結界を張って欲しいんだけど。できればこの先ずっと続く感じで」
「さらに追加で永続結界を張れとか、かなり無茶な要求までしとるしっ! しちゃっとるし!? しちゃっとるのじゃーー!!」
魔王さまはそう言うと、ついにブクブクと泡を吹いてぶっ倒れてしまった。
ミスティが慌てて支えようとして――ボスッ。
あ、今回は間に合わなかった。
ミスティの対応むなしく、魔王さまは砂浜に顔から突っ込んでしまう。
まぁ砂浜だし大事には至らないだろ。
すぐにミスティに抱き起された魔王さまは、
「ゴクリ……ぜー、はー。ゴクリ……ぜー、はー……」
差し出された水を飲んで、なんとか気持ちを落ち着けようとしていた。
そうこうしている間にも、俺の【ポセイドン】へのお願いは続いていて――。
――よかろう、全ての願いを聞き届けよう――
結局【ポセイドン】はするっとまるっと全部おおらかに了承してくれると、スッと大気に溶けるようにして、その存在を薄れさせていった。
割れた海はすっかり元通りになり、黒雲は消え去って燦燦と輝く太陽が再び顔を出す。
辺りはすっかり平穏無事を取り戻していた。
「そういうわけで安全になったから、これで心置きなく泳げるよ。さーて、初めての海を目一杯楽しむぞ――って、どうしたんだ魔王さま?」
「ど、ど、ど、どうしたもこうしたもあるかーい! 【ポセイドン】じゃぞ、【ポセイドン】! 大時化や大嵐を呼び、時に巨大な水の力で都市をまるごと水に沈めたとまで云われる、伝説の海洋王じゃぞ!? それをお主は一方的に呼びつけた上に、なーにため口であれこれお願いしとるのじゃ!」
「ん? なにか変だったか?」
「なにもかも変じゃわい! 一から十まで全部変じゃったわい! どこの世界に【ポセイドン】を一方的に呼びつけて勝手なお願いを次から次にしまくる奴がおるというのじゃ!」
「今、目の前にいるじゃないか。それにほら、実際にちゃんとお願いも聞いてくれただろ?」
「んほーーーーー! んがぁーーーーー!! ―――――はぅ」
魔王さまは立て続けに奇声を発すると、またもや泡を吹いてぶっ倒れてしまった。
「魔王さま、お気を確かに! 魔王さま、魔王さま――!」
「あれ、また俺なにかやっちゃったか……?」
…………
……
数分後。
「妾、すごく変な夢を見ておったのじゃ。伝説の【ポセイドン】が目の前に現れるという荒唐無稽な夢だったのじゃ」
「それなら夢じゃない――もごもご」
言いかけた俺の口を、ミスティが両手でむぎゅっと塞いでくる。
そして俺の耳元に口を寄せると、小さな声でそっとお願いをささやいた。
「ハルト様、ここはそういうことにしておいてはいただけませんでか? 魔王さまは少し心が疲れておいでなのです」
その言葉に、ああそうか――と俺はすぐに納得をした。
魔王さまが気疲れしている原因を察したからだ。
こくんと頷いてみせると、ミスティは安心したように俺の口から手を離した。
「そうだよな。国民の象徴として、義務しかない大変な生活を送っているんだもんな。それに加えて今は俺の面倒も見てくれているときた。そりゃあ気疲れもするよな」
ちゃんと分かってるよと、小声でミスティに伝えると、
「うーんとまぁ……はい、そうなんです。魔王さまは結構大変なんです」
ミスティは一瞬怪訝な顔をした後、にっこりと笑った。
「ではハルト様、魔王さま。せっかく海に来ているんです。話すのはこれくらいにして、みんなで泳ぎませんか?」
「そうだな」
「賛成なのじゃ。妾ビーチボールも持ってきておるのじゃ。ビーチバレーもするのじゃ」
「ではまずは準備体操をしましょう。ハルト様はその前に着替えを。ハルト様の水着も持ってきておりますので」
「マジか、サンキュー!」
その後。
完全に安全になった海で心行くまで泳ぎ、砂浜で遊んだ俺たちだった。