【CASE:3、真実の口】
「なんだ、このおっさんのでかい顔だけの、妙チクリンな彫刻は?」
とある広場の脇の壁に設置された謎の顔の彫刻を見て、俺は思わず首を捻った。
「これは『真実の口』というのじゃよ」
「『真実の口』? これまたえらく仰々しい名前だな?」
「嘘つきがこの口に手を入れると手が抜けなくなるのじゃ」
「なにそれ、こわっ!?」
「あくまでただの言い伝えじゃよ。実際はただの観光名所――」
幼女魔王さまが言葉を続けようとしたが、俺はもうこの時点で全てを理解していた。
「分かったぞ。さてはイタズラ好きの双子精霊【アミ・マミ】の仕業だな?」
「え? いや、ただの言い伝えじゃが」
「手を入れたら抜けなくなるなんて、人をからかって遊ぶのが好きな【アミ・マミ】がやりそうなことだからな」
「だから単なる伝説──」
ならば──!
「よし、ここは俺に任せろ!」
「ハルト?」
「ハルト様?」
「人をからかって遊ぶのがいきがいの、いたずら好きの精霊め! だがしかし! ここに俺がやって来たのが運の尽きだったな。精霊騎士である俺がお前らに少しお灸を据えてやろう! 出でよ! 炎の魔神【イフリート】!」
――心得た――
俺は炎の最上位精霊【イフリート】を召喚し顕現させた。
それを見た幼女魔王さまが、慌てふためいて悲鳴のような声をあげる。
「ちょっとぉ!? 街中でいきなり伝説の炎の魔神【イフリート】を召喚じゃと!? しかも当たり前のように無詠唱じゃし!」
「なぁに、心配はいらない。俺は【イフリート】を完全にコントロールすることができる。だからほら、人間サイズで小さめに顕現させているだろ?」
俺ほどになれば、最強と名高い炎の魔神もこの通り素直なものだ。
レアジョブ精霊騎士は伊達ではない!
そして精霊の力を借りるだけだなく世界に顕現させたことで、精霊使いでなくても見えるようになったので、
「これが炎の最上位精霊【イフリート】ですか。揺らめく炎が綺麗なものですね」
ほへーって感じで、ミスティが興味深そうに【イフリート】を観察していた。
「ハルトよ、お主ほんっとうにスゴイのぅ……お主の前では最弱の【火トカゲ】を呼び出すのがやっとの妾なんぞ、ミジンコも同然――」
「ま、魔王さま、お気を確かに!!」
青い顔をしてフラフラっと倒れかけた魔王さまを、ミスティが慌てて支えた。
「すまんのぅミスティ、お主にはいつも迷惑をかける」
「なんともったいないお言葉です。さ、深呼吸をして気持ちを落ち着けましょう」
「すーはー、すーはー……ふぅ少し落ち着いたのじゃ。じゃがしかしハルト、今回もお主の早とちりであるぞ? あくまでそう言う言い伝えがあるというだけなのじゃからの」
幼女魔王さまは深呼吸して気持ちを落ち着けショックから立ち直ると、改めて説明をしてくれる。
「ってことは、嘘だと分かった上でみんな『真実の口』に手を入れているのか?」
「そういうことじゃの」
「いったい何のために? 嘘だって言うんなら、手を入れても何も起こらないわけだろ?」
「ハルトはどこまでも合理主義者じゃのぅ。嘘を嘘と分かった上で、敢えてのっかって楽しむ。時には無駄とも思えるその非合理性の中にこそ、より深い文化の味わいというものが見えてくるのじゃよ」
「ふへぇ、なるほどなぁ」
俺はゲーゲンパレスに根付く文化的先進性に、心の底から感動したのだった。
そして、
「では次の場所に行くのじゃよ――」
幼女魔王さまがそう言いかけた時だった。
――すんませんでしたー!――
『真実の口』から2人の声がハモったような不思議な声が聞こえてきたのは。
「うぇぇぇっ!?」
「魔王さま、急にどうされたのです!?」
その声を耳にした幼女魔王さまが口をパクパクさせながらぶっ倒れかけ、またもやすんでのところでミスティが身体を支える。
「どうやら本当に精霊が住み着いていたみたいだな」
俺の召喚した【イフリート】の放つ強烈なプレッシャーに耐え切れず、いたずら好きの双子精霊【アミ・マミ】が自首してきたのだ。
――もういたずらはしませんのでお許しを~――
――お許しを~――
姿を現した双子精霊は【イフリート】にビビりまくってへこへこと謝罪をはじめた。
だから俺はズバリ言ってやった。
「いいや、今まで通りでいい。これからも嘘を嘘と知った上で敢えて楽しむこの最先端文化を見守っていて欲しい。それがお前たちの使命なんだ」
――ねーアミ、この人なに言ってんのー?――
――アミわかんなーい――
――だよねーw――
――イミフーww――
――ウケるww――
空気も読まずにワイワイやりだした双子精霊を、【イフリート】が猛烈なプレッシャーと共にギロリと睨みつけると、
――みこころのままにー!――
――ままにー!――
双子精霊は再び殊勝な態度になって、俺の言うことに従うことを約束してくれたのだった。
その後も、俺は時間の許す限りゲーゲンパレスの様々な観光名所を案内してもらい。
行く先々で最先端文化を目にしては、感動に次ぐ感動を味わったのだった。
「なんだ、このおっさんのでかい顔だけの、妙チクリンな彫刻は?」
とある広場の脇の壁に設置された謎の顔の彫刻を見て、俺は思わず首を捻った。
「これは『真実の口』というのじゃよ」
「『真実の口』? これまたえらく仰々しい名前だな?」
「嘘つきがこの口に手を入れると手が抜けなくなるのじゃ」
「なにそれ、こわっ!?」
「あくまでただの言い伝えじゃよ。実際はただの観光名所――」
幼女魔王さまが言葉を続けようとしたが、俺はもうこの時点で全てを理解していた。
「分かったぞ。さてはイタズラ好きの双子精霊【アミ・マミ】の仕業だな?」
「え? いや、ただの言い伝えじゃが」
「手を入れたら抜けなくなるなんて、人をからかって遊ぶのが好きな【アミ・マミ】がやりそうなことだからな」
「だから単なる伝説──」
ならば──!
「よし、ここは俺に任せろ!」
「ハルト?」
「ハルト様?」
「人をからかって遊ぶのがいきがいの、いたずら好きの精霊め! だがしかし! ここに俺がやって来たのが運の尽きだったな。精霊騎士である俺がお前らに少しお灸を据えてやろう! 出でよ! 炎の魔神【イフリート】!」
――心得た――
俺は炎の最上位精霊【イフリート】を召喚し顕現させた。
それを見た幼女魔王さまが、慌てふためいて悲鳴のような声をあげる。
「ちょっとぉ!? 街中でいきなり伝説の炎の魔神【イフリート】を召喚じゃと!? しかも当たり前のように無詠唱じゃし!」
「なぁに、心配はいらない。俺は【イフリート】を完全にコントロールすることができる。だからほら、人間サイズで小さめに顕現させているだろ?」
俺ほどになれば、最強と名高い炎の魔神もこの通り素直なものだ。
レアジョブ精霊騎士は伊達ではない!
そして精霊の力を借りるだけだなく世界に顕現させたことで、精霊使いでなくても見えるようになったので、
「これが炎の最上位精霊【イフリート】ですか。揺らめく炎が綺麗なものですね」
ほへーって感じで、ミスティが興味深そうに【イフリート】を観察していた。
「ハルトよ、お主ほんっとうにスゴイのぅ……お主の前では最弱の【火トカゲ】を呼び出すのがやっとの妾なんぞ、ミジンコも同然――」
「ま、魔王さま、お気を確かに!!」
青い顔をしてフラフラっと倒れかけた魔王さまを、ミスティが慌てて支えた。
「すまんのぅミスティ、お主にはいつも迷惑をかける」
「なんともったいないお言葉です。さ、深呼吸をして気持ちを落ち着けましょう」
「すーはー、すーはー……ふぅ少し落ち着いたのじゃ。じゃがしかしハルト、今回もお主の早とちりであるぞ? あくまでそう言う言い伝えがあるというだけなのじゃからの」
幼女魔王さまは深呼吸して気持ちを落ち着けショックから立ち直ると、改めて説明をしてくれる。
「ってことは、嘘だと分かった上でみんな『真実の口』に手を入れているのか?」
「そういうことじゃの」
「いったい何のために? 嘘だって言うんなら、手を入れても何も起こらないわけだろ?」
「ハルトはどこまでも合理主義者じゃのぅ。嘘を嘘と分かった上で、敢えてのっかって楽しむ。時には無駄とも思えるその非合理性の中にこそ、より深い文化の味わいというものが見えてくるのじゃよ」
「ふへぇ、なるほどなぁ」
俺はゲーゲンパレスに根付く文化的先進性に、心の底から感動したのだった。
そして、
「では次の場所に行くのじゃよ――」
幼女魔王さまがそう言いかけた時だった。
――すんませんでしたー!――
『真実の口』から2人の声がハモったような不思議な声が聞こえてきたのは。
「うぇぇぇっ!?」
「魔王さま、急にどうされたのです!?」
その声を耳にした幼女魔王さまが口をパクパクさせながらぶっ倒れかけ、またもやすんでのところでミスティが身体を支える。
「どうやら本当に精霊が住み着いていたみたいだな」
俺の召喚した【イフリート】の放つ強烈なプレッシャーに耐え切れず、いたずら好きの双子精霊【アミ・マミ】が自首してきたのだ。
――もういたずらはしませんのでお許しを~――
――お許しを~――
姿を現した双子精霊は【イフリート】にビビりまくってへこへこと謝罪をはじめた。
だから俺はズバリ言ってやった。
「いいや、今まで通りでいい。これからも嘘を嘘と知った上で敢えて楽しむこの最先端文化を見守っていて欲しい。それがお前たちの使命なんだ」
――ねーアミ、この人なに言ってんのー?――
――アミわかんなーい――
――だよねーw――
――イミフーww――
――ウケるww――
空気も読まずにワイワイやりだした双子精霊を、【イフリート】が猛烈なプレッシャーと共にギロリと睨みつけると、
――みこころのままにー!――
――ままにー!――
双子精霊は再び殊勝な態度になって、俺の言うことに従うことを約束してくれたのだった。
その後も、俺は時間の許す限りゲーゲンパレスの様々な観光名所を案内してもらい。
行く先々で最先端文化を目にしては、感動に次ぐ感動を味わったのだった。